地域で実践する回想法の効果 ―認知症予防と絆づくり

 

長野県諏訪郡富士見町の社会福祉協議会は、『認知症予防のための回想法』(当社刊)著者で、医師でもある鈴木正典氏を招き、回想法について町民向けの講演と職員向けの研修会を実施しました(2016.8.18)。自称“旅芸人”の鈴木氏によるユーモアと笑いに包まれた学びの様子を紹介します。

「回想法を学びたい」という現場の声から

長野県中部に位置する富士見町は、八ヶ岳連峰や南アルプス連峰の裾野に広がる高原の町で人口は1.5万人弱。新宿から電車で2時間余りというアクセスのよさから、夏はトレッキングや登山、冬はスキー、スノーボード目的の観光客が訪れます。

同町社会福祉協議会・篠原早紀氏によると、高齢化率は徐々に上がっており現在32.6%に。地域包括ケアシステム構築の一環として、「富士見町地域元気リーダー」(ボランティアを行う町民やサロン活動*1の担い手等。以下:リーダー)を養成する事業などを行っています。このリーダーたちの間で回想法が話題になって、「実践的に学びたい」という声が上がり鈴木氏に講演を依頼。当初、リーダー向け講演のみを想定していましたが、同協議会職員ら(デイサービスセンターや福祉施設で働く介護職・ケアマネジャー)からも学びたいとの要望があり、講演(13:30〜15:30 参加者50人超)・研修会(18:00〜19:30 参加者80人超)の2部構成で開催されました。

第1部「実践! 回想法 思い出語りは元気のもと」音楽と対話、楽しさにあふれたリーダー向け講演

鈴木氏は、参加者へのあいさつ代わりに持参のチェロを奏で始めました。童謡「ちいさい秋みつけた」の郷愁をそそるメロディは、回想の世界への誘いでもあります。最初に、懐かしいモノクロ写真をスライドで映しながら、高齢者から思い出話を引き出すコミュニケーションのコツについて紹介しました(写真1)。

「実際にメンコを打ってみてください」と促された男性参加者は、腕前を披露。「久しぶりです。子どものころは、たくさん集めていました」とにっこり。鈴木氏の問いかけに答える形で話に花が咲きます。写真のほかにも、洗濯板や農具を提示して高齢の参加者に使用法を実演してもらったり、地域固有の習わしなどについて発言してもらったりしながら、「長期記憶」「短期記憶」のメカニズムや流行歌の効用、サロンへの参加に消極的な高齢男性への介入法についても解説していきます。

最後は打楽器を使ったリズムセッションに全員が加わって、サロンを盛り上げる方法を習得しました(写真2)。参加者自身が回想法を受け、その効果を感じると同時に実践を学べる講演会となり、多くの参加者から笑みがこぼれていました。

写真2 太鼓や打楽器によるリズムセッションから参加者の一体感が生まれていく。締めは三・三・七拍子!

 

第2部「認知症スキルアップ講座 認知症ケアに回想法を活かす」“関係性”に着目する研修会

福祉・介護職員らが集った研修会では、まず、第1部の講演内容のダイジェストを紹介(写真3)。雰囲気がほぐれた後、「回想法のポイント」「認知症ケアの種々のアプローチ法」「介護技術としてのユマニチュード」などを資料に沿って解説し、認知症患者の抱える障害についても「関係性」「言語機能」「記憶」の項目ごとにわかりやすく説明しました。

 

写真3 勤務後に集った職員は、鈴木氏のチェロに癒やされた後、研修を熱心に聴講する


鈴木氏が提案するのは、高齢者のライフストーリーや時代的背景に関心を持ち、回想法を日々のケアに活かすこと。子どものころどこに住み、故郷の名物は何か、壮年期はどんな仕事をして、何を誇りに思っているのかなどの傾聴を通して、その人らしさを尊重してかかわるのが大切といいます。職員は、熱心にメモをとり、研修会終了後も質問が絶えませんでした。

回想法を通じた地域の活性化と絆づくり

今回使用された写真のいくつかは、富士見町出身の写真家・武藤盈氏のもの。参加者は、写真の舞台となった商店や現存する風景(写真4)に思いを馳せ、感慨にふける様子でした。

 

写真4 日本の原風景「田植え」の写真を紹介する鈴木氏。「結い」というしきたりによって地区の人々が共同で作業しています。1枚の写真から昔の記憶が蘇ってきます。


鈴木氏の実践する回想法の特色は、味噌づくり、米づくりなどの日常生活文化の遺産に着目する点(民俗学的回想法とも呼ばれる)であるため、地域の伝統的な技と知恵が世代間で継承される例もあるといいます。認知症高齢者の増加が見込まれ、市町村での介護予防事業への取り組みが推進される中、地域のサロンでの回想法の実践は増えていくと思われます。また、地域の民俗資料館や博物館が主体となって回想法を行う試みも増えています。

回想法は介護予防に留まらず、地域におけるネットワークづくり、絆づくりにもつながっていくでしょう。

(編集部 戸田千代)

──月刊「看護」第68巻 第13号 p.94-95より転載

 

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