性的逸脱行為への対応――看護職の悩みを和らげる工夫:①8つの原則編

認知症者の性的逸脱行為について1人で悩んでいる看護職も少なくないでしょう。今回は2回に分けて、性的逸脱行為を繰り返す利用者へのかかわり、訪問看護で起こりやすい6つの場面についてQ&A方式でNPO 法人なずなコミュニティ看護研究・研修企画開発室 室長 堀内 園子さんにご解説いただきます。

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性的逸脱行為は、認知症の人への看護において大きなテーマの1つです。現場で悩んでいる看護職は少なくないでしょう。しかし、なんとなく人に話すのは恥ずかしいと思っている看護職も多く、深刻に悩んでいるわりに深く掘り下げられることは滅多にありません。

まずは性的逸脱行為のある人にかかわる際の8つの原則を紹介します()。

性的逸脱行為のある人にかかわる際の原則

●原則1:積極的な心の準備をしておきましょう

性的逸脱行為は繰り返されるため、それらのエピソードを持つ利用者にかかわる場合、性的逸脱行為が行われることを予測しておきます。これは、相手が何をするかわからない怖い人と思って警戒するという意味ではありません。後段で詳しく述べますが、性的逸脱行為がなされる背景には、利用者の真のニーズが隠れていたり、行為に一定のパターンが見られたりします。「○○さんに抱きつかれるかもしれない。そのときはこういう視点を持ってかかわろう」と積極的な心の準備をしておくという意味です。

●原則2:性的逸脱行為のパターンをアセスメントしましょう

繰り返される性的逸脱行為について、いつ、どんな場面で生じているのかを分析しましょう。性的逸脱行為を行うきっかけがあるかもしれません。20代の女性を見ると必ず卑猥な言葉を言い、それ以上の年齢の人には体を触ってくるなどの特徴がみられたり、またある一定の時間帯で性的逸脱行為が行われることもあります。性的逸脱行為のパターンをアセスメントすると、誘発のきっかけが見えてくることがあります。

●原則3:性的逸脱行為を注意して正すのは、効果的ではないことを知っておきましょう

性的逸脱行為の内容・パターンは、認知症のタイプによっても違います。性的逸脱行為が目立つのは、ピック病に代表される前頭側頭型認知症の人です。

このタイプの人は、場の空気を読み言動を調整するといった前頭前野の神経細胞がダメージを受けるため、記憶に関与する海馬が萎縮するアルツハイマー型認知症の人と比べると記憶障害は目立ちませんが、周囲の状況やルールを無視したような言動が多くみられます。自分の言動を環境に合わせて調節するさじ加減がわからないのです。「こんな所でそんなことをしなくても」といった言動が増え、その中に性的逸脱行為があります。

また、目の前の出来事に影響を受けやすく、目の前においしそうな食べ物があれば食べ、目の前にかわいい人がいると触るのです。“今、やりたいからやる”という発想なので、相手を困らせようと思ってする行動ではありません。そのため、注意されても心には響きません。むしろ「この人は敵」「私を嫌っている」と感じてしまいます。

●原則4:自分の思いを言語化する力を蓄えておきましょう

これは性的逸脱行為への対応に限ったことではなく、認知症の人とかかわる上で重要なコミュニケーション技術です。利用者が突然、体を触ってきたり、卑猥な言葉を言ったりした際に、「いきなり触る(言う)からびっくりしました」などと、そのときの感情を言葉で表現することが大切です。とはいえ、すぐに言語化できるわけではないので、自分が抱く感情を表現する言葉を日ごろから蓄積する努力が重要です。

●原則5:利用者に期待する言動を伝えながら、違うことに関心を向けさせましょう

例えば、訪問していきなり抱きつかれたときに、「急に抱きつかれてびっくりしました。今度は『こんにちは』って言葉でお願いします」「○○さんは抱きつくのが好きですね。でも今は、あちらでおいしいおやつでも食べましょう」などと伝えるのです。

●原則6:仲間とシミュレーション・ロールプレイをしてみましょう

現場で活動する看護職なら「こんな場面あるよね」という事例をいくつか持っていると思います。それを基に、利用者役と看護職役となって実演してみましょう。複雑なシナリオは必要ありません。現場で起こった場面をロールプレイしてみるのです。性的逸脱行為は、ショッキングな出来事なので、看護職は1人で傷つき、抱え込むことがあります。仲間と具体的に演じ合うことで出来事を共有でき、また、対応のバリエーションを増やすことにもつながります。

●原則7:性的逸脱行為の背景にある感情に焦点を当ててみましょう

認知症の人とともに過ごしていると、認知症の人は「頭の中が空っぽになっていく」などと不安を感じていたり、「どうしていいかわからない」といったもどかしさを抱えていたりします。看護職はこれらの感情を知り、それに対する働きかけをしない限り、性的逸脱行為のみに振り回されることになりかねません。簡単ではありませんが、だからこそ看護職としてのやりがいがあると思います。認知症の人の思いを知り、求めている真のニーズに迫ることが鍵だと考えます。

●原則8:「性的逸脱行為をやめさせること」ではなく、「利用者の心身の充実」に主眼を置きましょう

 「この言動をやめさせよう」という発想で認知症の人とかかわると、相手と心の隔たりが生まれ、ケアがうまくいかないことが多々あります。性的逸脱行為はもちろんしてほしくはありませんが、かかわり方としては言動をやめさせることに縛られず、「利用者が性的逸脱行為をしなくても楽しく、充実して生活するにはどうしたらよいか」という発想で取り組むと、さまざまなアイデアが生まれます。

 

──月刊「コミュニティケア」第19巻 第03号 p.13-15より転載

<おわり>

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そして、平成28(2016)年度診療報酬改定で「認知症ケア加算」が新設されたことにより、急性期病院での認知症ケアは大きく変わりました。

ここでは、弊社の既刊書籍で認知症ケアの変遷を振り返ってみます。

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