2004年12月、「痴呆」に替わり「認知症」という呼称になったのを契機に、認知症ケアは著しい勢いで進展してきました。
医療の進歩により認知症の早期診断が可能となった結果、若年性認知症の本人が自ら政策提言し、認知症の人の立場に立ったケアが推進されるようになってきています。
そして、平成28(2016)年度診療報酬改定で「認知症ケア加算」が新設されたことにより、急性期病院での認知症ケアは大きく変わりました。
ここでは、弊社の既刊書籍で認知症ケアの変遷を振り返ってみます。
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『老年痴呆とは何か』
著者:長谷川和夫、今井幸充
A5判 / 144頁 1990年発行(絶版)
「痴呆・ぼけ老人」と呼ばれていた時代から患者に寄り添い続けた認知症診療・研究の先駆者の言葉
「痴呆」から「認知症」に呼称が変更になったのは2004年12月。本書が出版された1990年は、「痴呆老人」「ぼけ老人」という言葉が日常的に使われていました。
本書の著者・長谷川和夫先生は、言わずとしれた認知症研究の第一人者ですが、2018年、自身が認知症に罹患したことを公表されて話題になりました。
「普通に暮らす私の姿を見て、認知症になっても大丈夫と安心してもらいたかった」と話す長谷川先生の姿勢に勇気づけられた人は多いことでしょう。
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『ほかに何ができたろう
──アルツハイマー患者の在宅看護日記』
著者:小泉文子
四六判 /300頁 1994年発行(オンデマンド対応可)
日々人格が崩壊していく夫に戸惑いながらも、あるがまま受け入れた妻の10年にわたる看護の記録
大学教授の夫がアルツハイマー病になり、著者の生活は一変しました。人生をともに歩んできた夫の人格が破壊する様を目の当たりにして、恐ろしさ、淋しさ、頼りなさを一人で受け容れ、時に絶望したり、腹を立てたりの毎日だったそうです。
10年間の出来事を書き留めた日記を振り返り、著者は「これでよかったのか」と反省をしつつも、「では、ほかに何ができたろう」と自身に問いかけます。今も昔も、きっと未来でも答えの出ない永遠のテーマではないでしょうか。
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『認知症の語り
──本人と家族による200のエピソード』
編集:認定NPO法人 健康と病いの語りディペックス・ジャパン
新書判 / 624頁 2016年発行
認知症本人や家族が自ら発信する圧倒的な“なま”の声
2014年10月、認知症当事者の視点から施策を提言しようと、国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」が発足し、2018年11月に「認知症とともに生きる希望宣言」を表明しました。
本書は認知症本人と家族の声を集めたウェブサイト「認知症本人と家族介護者の語り」の書籍版ですが、近年、認知症本人の方が書かれた書籍が次々と刊行されています。
「認知症=何もわからない人」というイメージは過去のものとなりつつあります。
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『多職種チームで取り組む
認知症ケアの手引き』
編集:鈴木みずえ
B5判 / 152頁 2017年発行
日本老年看護学会の提案で実現した診療報酬化「認知症ケア加算」
認知症をもつ高齢者が身体疾患により入院すると、入院生活への適応が困難になり、認知症の行動・心理症状(BPSD)の出現につながります。この解決のためには多職種協働によるケアが不可欠です。
平成28年度診療報酬改定で「認知症ケア加算」が新設されたことで、これまで重視されてこなかった急性期病院での認知症ケアの質は大きく向上しました。本書は認知症ケア加算の要件である手順書作成のヒントや、身体拘束解除に向けた取り組みについて掲載しています。
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「痴呆・ぼけ」の昭和の時代から、当事者が声を上げ始めた平成の時代を経て、令和の時代、認知症ケアはどのような方向へと進んでいくのでしょうか。