●介護を契機とする新しいつながりの構築
さらに、介護を契機とした新しいつながりをつくる支援も重要です。援助者からは「男性介護者はなかなか外に出たがらない」「ほかの人と話したがらない」という相談をよく受けます。“最初の一歩”をどうつくるかは大きな課題です。
男性介護ネットでは、全国各地で男性介護者が相互に交流できる居場所づくりを推奨してきました。男性介護者に特化した当事者団体や集いは、今や全国で100を超えます。地域包括支援センターが企画した講演会等をきっかけに、男性介護者同士がつながり、集いに発展したケースもあります。
集いでは、介護経験を語り合うだけではなく、介護サービス・介助方法に関する「学習会」や「料理教室」など、男性が足を運びやすい企画運営を工夫する活動も増えています。特に、酒を交えた交流会であれば必ず出向くという男性介護者もいます。
こういった集いでは、自分が介護で困っていることを吐露し、他者の悩みに耳を傾け共感しつつ、自分の介護のあり方を相対化することができます。この一連の取り組みは、男性介護者が「仕事」モードから「介護」モードへと気持ちを切り替える作業に重要な役割を果たします。また、こうしたつながりは、社会との接点が少なくなりがちな看取りを終えた男性介護者の居場所にもなっています。
さらに、男性介護者ネットでは、会員の皆さんから介護体験を集めて手記としてまとめ、介護でなかなか家を空けられない男性介護者の手元に届ける取り組みも行ってきました。
男性介護者が介護を契機に新しいつながりを築いていくためには、当事者自身の活動に依拠した“男性に優しい:male-friendly”な支援の充実が必要不可欠です。2015年9月にスウェーデンで開催された「第6回世界介護者会議」には、世界33カ国の参加があり、私も日本の男性介護者の現状について報告しました。世界で、ジェンダーに配慮した(ジェンダーセンシティヴな)支援が介護の分野でも重要であるという共通認識が進んできています。