認知症高齢者の性的行動

認知症を発症すると、脱抑制や社会的認知の障害によって、看護職などに卑猥なことを言ったり、自身の性器を見せたり、性行為を迫るといった性的逸脱行為がみられることがあります。これらの行為により、家族が戸惑いを感じたり、また介護サービスを打ち切られるケースもあるようです。

今回は、中高年の性を専門に研究してきた荒木乳根子さんに、これまでの調査結果から高齢者の性および、認知症高齢者の性的行動やその要因を分析し、かかわる者のとるべき姿勢について考察いただきます。

高齢者の性とは

要介護者の性的行動に初めて遭遇した介護者は、びっくりして“異常だ”という意識から嫌悪感を募らせることがあります。高齢者や要介護者に性的関心があるなど思っていないからです。日本性科学会セクシュアリティ研究会の中高年セクシュアリティ調査(2012年調査)で一般高齢者についてみると、60~70代の単身者で「交際相手がいる」「交際相手がほしい」と回答した男性は約9割、女性は4割台でした1)。多くの単身者が異性への積極的な関心を持っているのです。また、図1のように60歳以上の有配偶男性の半数以上は、妻との性交渉ないし愛撫などの性行為を望んでいます2)。そして、夫婦間では60代で3~4割強の人が、70代では2~3割の人がこの1年間に性交渉があったと回答しています1)

ただ、男性の性機能は50代後半ごろから低下し始めますし、要介護者のほとんどはいわゆる性交は不能と考えられます。しかし、性的関心を失うわけではありません。精神分析を創始したフロイトは性的エネルギーを生命の基本的エネルギーであると考え、さまざまな活動の原動力だと考えました。要介護状態になっても性的関心を持つのは人として自然なこと、死ぬまで人間は性的存在であるという認識が必要だと思います。

 

認知症高齢者の性的行動とは

介護の現場で問題になることがある性的行動には、①介護者に対する性的行動、②ほかの利用者に対する一方的な性的行動、③利用者同士の好意・恋愛、④対象のいない性的行動、があります。行動化は認知症の有無に限らずありますが、認知症者の場合は抑制が効きにくく、周囲の反応を気にしないのでより行動化しやすいといえます。

ここでは認知症高齢者の性的行動への理解の基本になると考える、介護者に対する性的行動について述べます。図23)は筆者が実施した女性訪問介護員対象の調査結果(2008年調査)で、高齢者250事例について記載から抽出した性的働きかけの内容です。最も多いのは言葉による働きかけですが、抱きつく、胸やお尻を触るなどの直接的な行為もあります。訪問介護員の多くは、その場は「さりげなく流した」「明るく冗談で応えた」ものの、ほぼ3人に1人は対応に戸惑いや不安を持ち、4、5人に1人は利用者への拒否的な感情を抱き、10人に1人は担当をやめています。利用者の家という密室で利用者と1対1での対応が多い訪問介護員にとって深刻な問題といえます。

また最近は、デイサービスやユニットケアなどでの女性利用者から男性介護職への性的行動も増えてきたように思います。股間に触るなどの行為もありますが、女性の場合は特定の介護職に恋愛感情を持ち、キスや抱擁を要求して付きまとったり、ほかの女性介護職や利用者に嫉妬してトラブルになったりすることが多いようです。ただ男性介護職の場合は、相手への嫌悪感や拒否感が少ないので、それほど問題視されないようです。

どのように理解するか

認知症高齢者の性的行動に対しては、ともすれば感情的に反応してしまいがちです。しかし、ほかの行動上の問題同様、「なぜ」そのような行動をとったのか、相手の気持ちや背景を考えて対応する必要があります。

まずは状況から誘発要因の有無をチェックしましょう。介護行為を性的誘いと誤認、介護者を妻や夫と誤認しての性的行動があります。介護者の服装や言葉遣いがきっかけを生むこともあります。

次に、その心理面、すなわち背景要因を検討する必要があります。多くの事例をみると、各々異なる面があるとはいえ、背景に不安や孤独感、疎外感があるように思います。パーソン・センタード・ケアを提唱したトム・キットウッドは、認知症者の性的行動をなぐさめのニーズ(喪失感に対処しようとするときに他人と親密になることから安心の感情を得ようとすること)の表れと解釈できるかもしれないと記しており4)、筆者もそのとおりだという気がします。

介護者への性的行動は、自分が好感を抱いた相手とのかかわりを求める行為でもあります。それは“自分を認めてほしい”“人間的な温もりのある関係がほしい”“不確かになった自分を確認したい”“楽しいコミュニケーションを持ちたい”といったメッセージであることが多いように思います。だからこそ、触ってきた手を退けてもちょっとした楽しいやりとりがあれば和むのです。認知症高齢者の性欲は、生理的というより心理的な性欲といえるのではないかと思います。また今、高齢にある男性は、性的言動が女性への働きかけのツールとして当たり前だった時代を生きてきたことも考慮に入れる必要がありそうです。

ただし、多くの性的行動は前述したような理解でよいと思いますが、中には前頭側頭型認知症による症状や実際に性欲が強い場合もあることを念頭に置いておく必要があるでしょう。

 

介護者のとるべき姿勢

認知症高齢者の性的行動によって介護者自身が傷つかないように、また、高齢者を傷つけないように、次のような配慮が求められます。

①人間は終生性的存在です。認知症高齢者の性的行動は「異常ではない」「あり得ること」という認識を持つこと。そして、②性は生きるエネルギー、いわば“元気印”であるという肯定的な視点も念頭に置くこと。③気持ちの余裕が持てるように自分なりの対応を考えておき(例えば、コミュニケーションの誘いと受け止め、触ってきた手を取って「何か?」と問いかけるなど)、④直面して嫌悪感を覚えたら無理をしないで場を外します。一呼吸おいて「あのようなことをされるとお世話をできなくなります」と伝えるのも1つです。性的行動は拒否しても、その人自身を拒否しないようにしたいものです。⑤相手の心理面にも目を向けることができると、対応の選択肢が増えます。⑥1人で悩まず同僚や上司と情報を共有し、助言をもらうことも大切です。⑦もし相談を受ける立場だったら、性にかかわる感性は1人ひとり異なることを念頭に置き、相談者の嫌悪や不安などそのときの気持ちを尊重して、どうしたらいいかをともに考える姿勢が必要です。

ともあれ、性は人間の根幹にかかわることです。高齢者を傷つけないようにできるだけ穏やかな対応をめざし、介護者自身も傷つかないで望ましい対応ができるようなサポートが必要だと考えています。

●引用・参考文献

1)日本性科学会セクシュアリティ研究会, 荒木乳根子, 石田雅巳, 大川玲子, ほか:セックスレス時代の中高年「性」白書, harunosora, 2016.

2)セクシュアリティ研究会:2012年・中高年セクシュアリティ調査特集号, 日本性科学会雑誌, 32(Suppl.), p.81, 2014.

3)荒木乳根子, ほか:訪問介護利用者(高齢者)の性行動に対する介護職員の意識と対応に関する研究, フランスベッド・メディカルホームケア研究・助成財団研究報告書, 2008.

4)トム・キットウッド:認知症のパーソンセンタードケア新しいケアの文化へ, 高橋 誠一訳, 筒井書房, 2005.

──月刊「コミュニティケア」第19巻 第01号 p.10-12より転載

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