認知症の行動・心理症状(BPSD)とアロマケア

精油の香りを嗅ぐことで脳が刺激されることにより、認知症の中核症状である認知機能の改善効果がみられたり、精油のもつリラックス作用により行動・心理症状(BPSD)である不穏や興奮、睡眠障害の改善がみられるという研究結果が報告されています。

ここでは弊社書籍『日々の看護・介護ケアに取り入れる 高齢者へのアロマセラピー』(所澤いづみ著)より、認知症の方へのアロマケアについての記載を一部抜粋し、ご紹介します。

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このところ、「認知症予防」についての方法を取り上げているテレビ番組、雑誌や書籍が目立つようになってきました。街を歩いていると、「認知症だけにはなりたくない。家族のことも自分のこともわからなくなるのでしょ」と言う中高年の方の声をよく耳にします。

でも、本当に「認知症だけにはなりたくない」といえるのでしょうか? 筆者自身も長年、認知症の両親を介護してきました。その経験から、「認知症の方は幸せだな…」と思うことがあります。その人の人格を尊重して介護をすることができれば、「認知症だけにはなりたくない」にはつながらないのではないでしょうか。“明日はわが身”という気持ちでお付き合いしましょう。

「認知症高齢者が幸せだな」と思えるのは、つらい経験も楽しい経験もさまざまに忘却してしまうからです。人生においてつらすぎる体験を忘れることができるのです。高齢になっても嫌な体験やつらい体験を鮮明に記憶していたら、「終盤の人生が楽しかった!」と終えることができないとは思いませんか。

「認知症高齢者はかわいい!」と感じる瞬間がいっぱいあります。また、幼子のようだとも思います。幼子のようによいことも悪いこともストレートですから、幼子のように素直でかわいらしいのです。

しかし、介護者からみると、どんどん手のかかっていく、言うことを聞かない大きな子どもだから、介護はたいへんです。看護師・介護職側が、その人の人格を尊重した態度で接することが重要だと思います。まずは、認知症高齢者を知ることから始めましょう。

認知症とは

認知症とは、いったん正常に発達した脳の機能が継続的に低下し、記憶、判断、思考などの知的機能に支障を来たし、社会生活が正常に営めなくなった状態を指します1)

65歳以上の高齢者に起こる認知症の主な原因疾患は、アルツハイマー病が最も多く、次いで脳血管性認知症、レビー小体型認知症の順です。

認知症の症状

認知症が脳の器質的な障害から起こるということを介護している家族が知らず、理解していないことがあります。そのため家族は、認知症高齢者がとるさまざまな行動・心理症状の変化を認知することができず、言葉の暴力や虐待につながってしまう危険性があります。

厚生労働省の報告によると、実際に虐待を起こす続柄は、「息子」が 41.0%で最も多く、次いで「夫」19.2%、「娘」16.4%でした。最近、息子が高齢の母親の車イスを押している姿を街でよく目にするようになりました。微笑ましいと思える光景もありますが、「独身の息子が世話しているのかな?」と介護疲労を感じさせるような光景も目にします。

息子が虐待を起こしてしまいやすい状況としては、「息子が、親が認知症になっていることに気づかない、あるいは認めたくない」ということがあります。ついこの前までできていたことができなくなっている親を信じられず、何回か注意をしてもできないと、それがエスカレートして、大声で注意する。注意しても息子が思うように動かないと怒る。そのうち暴言から暴力になってしまう構図ができあがっていきます。

虐待は、親も子どもも被害者だと思います。息子は徐々に弱っていく親の姿を娘よりは見ていませんし、認知症の知識もなく、相談相手もないと孤独感を感じます。そして、親の介護で定職につけないと貧困になり、生活苦になります。このような家族を支援する体制がないと、悪循環が繰り返され、家族内の虐待につながってしまうのです。

このような状態を回避するためにも、看護師・介護職は、認知症の人に必ず現れる中核症状と、中核症状に伴って現れる行動・心理症状(BPSD)について学び、理解しておくことが重要です(図1)。

図1 認知症の中核症状と行動・心理症状

行動・心理症状(BPSD)とアロマケア

塩田氏ら2)は、アルツハイマー型認知症者25名を対象に、ベルガモットおよびレモングラスによる芳香浴を行い、精神症状の緩和や睡眠障害に有意な改善を示したことを報告しています。

認知症の病期に応じて出現するBPSDはさまざまですが、アロマセラピーを用いると効果的と考えられる症状と、注意を要する症状について、以下に示します。

1.人格・性格変化

認知症の人は徐々にその人らしさが失われ、人格変化が進みます。きれい好きで居室をきれいにしていた人がだらしなくなり、身のまわりのことが徐々にできなくなり、わからなくなります。自発性が低下し、活気がなく、人との交際に消極的になり、無反応の状態に陥ります。

❏ アロマケア

患者・利用者のその人らしさが徐々に失われていく速度を遅くするために、アロマセラピーを用いることができるのではないかと考えます。

5~10分間程度のハンドトリートメントをしながら、患者・利用者が興味をもつような話をしてみましょう。心地よい香りでやさしく触れられ、自分に興味をもって話を聴いてくれるということは、患者・利用者と看護師・介護職の信頼関係の構築につながります。アロマトリートメントをしながら患者・利用者の話を聴くことは、看護師・介護職にとってもよい香りによる癒しにつながります。

話を傾聴するときに香りを用いると、施術を受ける側にも行う側にも香りが脳に影響を及ぼします。オキシトシンというホルモンが分泌され、脳の疲れを癒し、気分を安定させ、人に対する信頼感が増し、心地よい幸福感をもたらしてくれるのです。

やさしくゆっくりと施術する手を相手の手に密着させて、香りを用いてアロマトリートメントを行うことで、患者・利用者は「大事にされている」と思いますし、「自分を認めてくれている」と感じるのです。

香りを用いるのと用いないのとでは、気持ちよさがまったく違います。それは、香りが鼻から脳にダイレクトに届くからです。「自分を認めてくれている」と感じると、心の緊張が緩んで言葉が出やすくなり、会話をするようになります。そうすると、活気が出てきます。

「継続は力なり」です。続けることで、確実に何らかの変化が現れます。それを記録に残して、5~6か月後に振り返ってみてください。

2.異食

異食とは、食べ物以外の物を口に入れて食べてしまうことをいいます。例えば、テーブルに置いてある小さな石を口の中に入れてコロコロしたり、おいしそうな香りがするアロマクリームを手に取り、口に入れて食べてしまうことがあります。

❏ アロマケア

認知症の人は嗅覚が鈍感になるといわれていますが、わずかな香りに反応することもあります。アロマセラピーでおいしそうに感じられる精油としては、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、バニラエッセンスの香りのベンゾインなどがあります。これらの精油を用いた芳香浴をするときや、アロマクリームを利用者の手の届く所に置いておくと、飲み込んでしまう危険があるため、注意が必要です。

3.睡眠障害

認知症の人は時間の感覚が失われているため、昼夜逆転が生じやすくなります。

❏ アロマケア

昼夜逆転の予防、あるいは改善する療法として、日中に散歩を行い、日光刺激により覚醒リズムを正常に戻す方法があります。また、生活リハビリという視点で、患者・利用者が興味をもつ作業を行う、カラオケで歌うなど、患者・利用者自身が何かに取り組むことができるように誘導することが大切です。

何かの作業をするときには、精油による芳香浴をしながら行うとよいでしょう。その際は、アロマライトで長時間芳香させ続けなくても構いません。鼻は15分程度で香りに慣れてしまい、感じなくなります。ライトのスイッチのON/OFFを切り替えながら行っても構いません。

比較的頭がすっきりする精油としては、レモン、ローズマリー・カンファー、ペパーミント、ヒノキ、青森ヒバ、ユーカリ・ラジアータ、レモングラスなどがあります。同室の人に好まれる香りのオイルを選択しましょう。

入眠する前には、鎮静作用のある真正ラベンダー、オレンジ、ローズウッド、フランキンセンスなどを用いて芳香浴をしてください。

不眠の人には、ベッドで休んでいるときに、ハンドトリートメントかフットトリートメントを5~10分間行うこともお勧めです。

「そんなことをしている時間がない」と言う看護師・介護職もいるかもしれませんが、施術を行うことで安定した睡眠が得られ、夜間徘徊の回数が減れば、看護師・介護職の介護の手間の時間が減少することになります。夜間帯の看護師・介護職の人数は日中より減るでしょうから、質のよい睡眠が少しでも長くとれることは、介護の手間が減ることにつながります。1回行って効果がなくてもあきらめず、複数回行ってください。患者・利用者に何らかの変化があると思います。

4.幻覚・妄想

実際にないものが見える幻視と、何かが聞こえる幻聴が多くの認知症高齢者に生じます。妄想は、「枕の下に置いてあった財布がない、盗まれた」という“物盗られ妄想”が多くみられます。家族間でお金を盗られたと言われれば、嫁、子ども、孫などの関係性を悪くさせることにもつながります。

いっしょに探してあげるのもよい行動ですが、本人の気持ちをほかのことに向けさせれば、「盗まれた」ことを忘れさせることができます。

❏ アロマケア

気持ちをほかに向けさせる1つの方法として、香りを用いると効果的です。「○○さん、この香りどう? いい香りかしら?」と声かけして、患者・利用者の気分の切り替えを行ってみてください。

図2は、口に入らないほどの大きな石に、ネズミの絵を描き、ラベンダー精油をたらしたものです。やや興奮しているときなどに試してください。香りとかわいらしさで、女性は興奮している内容をすぐに忘れて落ち着きます。これは、短期記憶障害の症状に働きかけたアロマセラピーです。

図2 ネズミのネズちゃん(認知症の女性が名付けた)
5.攻撃的言動・行動

体力がある認知症初期に起こりやすい症状です。記憶障害や認知障害などで、自分が思っているようにできない、家族も理解してくれないという焦燥感や不安感が表面化することで起こります。特に男性では、もともとの性格が認知症によって先鋭化して、暴力行為に進むことがあります。

❏ アロマケア

攻撃的な行動は、不安感や焦燥感が表面化して、患者・利用者自身が自分のコントロールを失うことから生じます。コミュニケーションをとろうとして言葉で働きかけると、その言葉に反応して、暴力的に返ってくる時期もあります。

そのような場合は、少しでも落ち着いているときにハンドトリートメントやフットトリートメントを行ってみてください。「いまなら受け入れてもらえそうかな」という時機を見計らうことが大切です。複数回行うことができれば、その患者・利用者はアロマトリートメントを受け入れていると同時に、施術をしている看護師・介護職をも受け入れているのです。信頼関係が築かれたことを意味します。暴力的な状況のときの不用意な言葉がけは、逆に気持ちをいらだたせることになります。非言語的コミュニケーションのアロマトリートメントが役立ちます。

また、アロマトリートメントは患者・利用者と家族間のつながりの絆を強くさせることもできるので、家族にも簡単な施術の方法を指導することもお勧めです。

認知症高齢者にアロマセラピーを行ううえで大切なこと

認知症の症状を理解したうえで、相手のペースに合わせてゆっくりとした雰囲気をつくりながら、やさしく話を傾聴し、否定せず受け入れ、受け止める姿勢が重要です。認知症高齢者は、話を否定されると、話をしなくなります。患者・利用者の表情を見て、気持ちを尊重しながら、芳香浴やアロマトリートメントを行うことで、認知症高齢者は安心感を得ていきます。

その意味でも、いつもケアしている看護師・介護職が施術をすることは、精神症状を安定させることにもつながります。

ボランティアの人が施術をする場合でも、同じ人が定期的にかかわることで安心感が生まれてきます。毎回違う人による施術では、認知症高齢者を不安にさせ、精神症状の悪化を引き起こす原因にもなるので、注意しましょう。

 

引用文献
1)松下正明,金川克子監修:個別性を重視した認知症患者のケア,医学芸術社,2007.
2)塩田清二:匂いによるアルツハイマー型認知症の治療研究とその展開,AROMA RESEARCH,15(2):103-107,2014.

~書籍ではこのあと、グループホームでのアロマケアの実践と効果についての記載へと続きます。詳しくは『高齢者へのアロマセラピー』をご覧ください。

✿ お知らせ ✿

書籍『高齢者へのアロマセラピー』の著者・所澤いづみさんが代表を務めるメディカルアロマ&リフレTo r iでは、看護師向け・介護士向けのメディカルアロマ研修を行っています。

詳細はメディカルアロマ&リフレTo r iのホームページをご参照ください。

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