「認知症とともに生きる」丹野智文さん&石井 敏さん講演リポート(日本医療福祉建築フォーラム2019)

一般社団法人 日本医療福祉建築協会は、医療福祉建築に関する研究・計画・設計者と他分野の人々が、ともに学び、考える場として、毎年「医療福祉建築フォーラム」を開催しています。
9月19日・20日に開催された「医療福祉建築フォーラム2019」から、ここでは、若年性認知症当事者の丹野智文さんと東北工業大学の石井 敏さんによる講演「認知症とともに生きる」を紹介します。

海外における認知症の人を取り巻く環境面の取り組み

石井 敏(東北工業大学工学部建築学科教授)

最初に石井 敏さんより、英国のAlzheimer’s Societyと米国のDementia Friends USAが行ってるDementia Friendly Communityの取り組みの中から、環境面について紹介がありました。

Alzheimer’s Societyでは「認知症の人にやさしい環境チェックリスト」を作成しています。これは認知症本人の視点に立ったバリアフリーの提案です。リストは7項目(静かな空間、標識[サイン]、照明、床、更衣室・トイレ、座るスペース、誘導[ナビゲーション])で、それぞれで提案事項を示しています【表】。

表:認知症の人にやさしい環境チェックリスト

静かなスペース
不安や混乱を感じているかもしれない人のための静かな場所はありますか?必要なのは、サポートしてくれる人と数分間話すことだけかもしれません。

標識(サイン)
・文字と背景のコントラストがはっきりした太字の標識(サイン)になっていますか?
・それを標識(サイン)として認識できるように、標識と取り付け面にコントラストはありますか?
・標識はドアに固定されていますか?可能な限り、ドア近くの表面には配置しないでください。
・標識は目の高さの明るいところに設置されていますか?
・標識は、抽象的な画像やアイコンであってはいけません。
・その建物や地域を初めて訪れた人が意思決定するために重要なポイントに標識が設置されていますか?
・トイレと出口の標識ははっきりしていますか?これらはとても重要です。
・ガラスのドアに、はっきりと印がついていますか?

照明
・玄関は採光がよく、できるだけ自然光を利用していますか?
・明るい光や深い影のあるエリアは避けてください。


・反射率の高い、または滑りやすい床面ではありませんか?反射によって混乱が生じることがあります。
・カーペットの模様は奇抜なものではありませんか?平坦か斑紋状のもののほうが認知症の人にはやさしいです。柄は知覚の問題を抱える人には問題を引き起こす可能性があります。
・床の仕上げ面は階段状ではなく同一平面ですか?床の表面を変更すると、知覚の問題によって混乱が生じることがあります。段差がある場合は、つまずく危険があります。

更衣室とトイレ
・更衣に援助が必要なときに、異性の介護者やパートナーが手伝うことができる更衣室がありますか?
・援助をしてくれる誰かや他の使用者が当惑することなしに使える男女両用のトイレや他の設備はありますか?
・視覚の問題がある人には、便座の色がトイレの壁や便座以外のすべての色とコントラストがあると、見やすいです。
・出口がどこかをはっきりと示すために、「出口」標識をすべてのトイレに取り付けてください。

座るスペース
・待つことができる座れるスペースがありますか?これがあると大変助かります。
・それは座席のように見えますか?そうであれば、認知症の人は簡単にそれが座席だとわかるでしょう。(たとえば、木のベンチは、抽象的なメタル製Z形ベンチよりも好ましいです)

誘導(ナビゲーション)
・目印(ランドマーク)をどうするか、周りをよく見て、考えましたか?調査によると、認知症の人は「目印」を使って、家の中や外を歩き回っています。目印(それは絵画や植物のようなものかもしれません)が魅力的で興味深いものであればあるほど、目印として利用することが容易になります。

(Alzheimer’s Society / 訳:編集部)

認知症本人にやさしい街のあり方とは

丹野智文(若年性認知症当事者、おれんじドア実行委員会代表)
ヨミドクターで「僕、認知症です~
丹野智文45歳のノート」連載中

丹野智文さんは2013年、39歳のときに若年性アルツハイマー型認知症と診断を受けました。それ以来、常に不安と闘い続けています。

認知症の人にとって、もの忘れは普通のことであり、いかにもの忘れをリカバリーするかが重要だと考えた丹野さんは、様々な工夫を重ねてきました。

そのうちの1つが、自作の「若年性アルツハイマー本人です。ご協力お願いいたします」と印刷したカードを常に携帯することです。それまでは、通勤の際に降りる駅がわからなくなったり、切符の買い方がわからなくなったりすると、周囲の人に助けを求めていたのですが、まだ若いので認知症と言っても信じてもらえず怪訝な顔をされたり、新手のナンパだと勘違いされることもありました。しかし、このカードを見せて「助けてほしい」と言うようになってからは、皆が快く助けてくれるようになったそうです。

丹野さんは、診断を受けた直後、若年性認知症についてほとんど知識がなかったので、インターネットで調べたところ、進行が早いとか、数年で寝たきりになるとか、悪い情報ばかりで、目の前が真っ暗になったそうです。さらに、若いので介護保険は使えないと区役所で言われ、まだ子どもたちも小さかったので経済的な不安も大きかったとのこと。また、世間ではアルツハイマー病に対する偏見も多く、家族に迷惑をかけるのではないか、子どもたちが学校でいじめられるのではないか、と不安で仕方がありませんでした。

しかし、若年性認知症だということをオープンにしてから、多くの人からのサポートを受けられるようになりました。自分のように病気を公表する仲間が一人二人と増え、他の障害を持つ人と出会う機会もでき、一気に世界が広がりました。

丹野さんは、「まわりの環境が一番大切」だと言います。最初はサポートしてくれる人を“介護者”だと思っていたけれども、一緒に過ごしているうちに“パートナー”だと思うようになってきたそうです。
「人生は認知症になっても、新しくつくることができる」──そのためには、「困っているから助けてほしい」と言える人をみつけること、そして認知症本人が安心して外に出かけられる環境が重要です。

街づくりや医療福祉施設の設計に携わる人に考えてほしいこととして、丹野さんは次のことをあげました。

  • トイレ表示(サイン)の男性用・女性用がわかりにくい。
    ⇒最近は、従来のような色別(青→男性、赤→女性)や形別(ズボン→男性、スカート→女性)で男性用・女性用を示すものではないピクトグラムも増えています。とてもおしゃれなデザインのものも多いですが、私たちでも、どちらが男性用でどちらが女性用かがすぐにわからず困った、ということがあるのではないでしょうか。
  • 空間認知障害がある人には、駅やトイレの床や壁一面に敷き詰められたタイルが歪んで見える。
  • 医療福祉施設の設計は、建築や医療の専門家が話し合ってつくっているのだと思うが、当事者目線が欠けていると思う。当事者にとっては使いにくかったり、もっとこうだったらいいのに、と思うことも多い。今後は、いかに当事者の声を取り込んで施設をつくっていくかを考えることが大切だと思う。

2020東京オリンピック・パラリンピックを契機に、ユニバーサルデザインを取り入れようという機運が高まっています。この機会に、わが国でもDementia-friendly communities(認知症の人にやさしいコミュニティ)へと舵を切っていきたいものです。

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