[感想]
認知症は世界共通の社会問題
● 自身の老後については考えたくない、目をそらせていたいテーマであり、確実に身に起こるテーマ。親、自身に置き換えて見入ってしまった。
● 30歳代以降の人にぜひ見てもらいたい内容。日本が抱える社会的な問題と当事者の思いがほぼ同じ。
● スペインの映画ということだが、そんなに文化の違い※を感じることはなかった。この映画を観たほとんどの人は「他人事ではない」と感じたのではないだろうか。
(※個人主義的な考えが優先される欧米では老後に施設に入ることは珍しくない。しかし南ヨーロッパのスペインでは大家族主義的な考え方が残っていて、介護を巡る状況はアジアに近いかもしれない、という説もある。)
● 知識として知っていたことも、立場を変えると考えさせられることが多々あった。医療制度や文化が異なっても、認知症の人をとりまく本質的なことは世界共通の問題なのだなと、改めて思った。
● 認知症になったとしても幸せに生きていけるという期待を持たせることは難しいと思った。
● 観たあとは、認知症は治らなくて進行していくということ、老いて社会から必要とされなくなってからの人生について思いを巡らし、切ないというか、なんとも言えない気持ちになった。
老いについて
● 自動車で夜中に抜け出して自由を楽しもうとするシーンがあったが、体は老いても気持ちはまだ若いつもりだったりして、そのアンバランスさが、誰しも年老いた時に葛藤するところなのかもしれない。祖母が生前「街を歩いていても気分は女学生の頃と同じなのよ」と言っていたことを思い出した。
● 認知症に自分や親がなった時のことを想像し、また亡くなった祖母のことを思い出し、「老い」について考えさせられる映画だった。施設に入っても仲間同士で助け合いや友情があるのだと少し救われた気持ちになったが、仲間がひとりずついなくなっていくのは(同じ施設内の別の階だとしても)悲しい。
● 老いは切なくも愛おしい。
重苦しいテーマの中での救い
● 認知症の世界や施設での暮らしをリアルに描いている中で、入居者仲間の夫婦のエピソードや、主人公の友人ミゲルが生き方を変えていくところに救いを感じた。
● 主人公のエミリオの感情を通して、本で読んだ認知症の人の感覚をすこし体験できたような気がした。自分の体験していることをわかってもらえずいらだつエミリオに同調して、自分もイラっとしてしまう場面もあった。同室のミゲルは、まさにケアラーだと思う。施設の職員は無難にやり過ごすところを、キチンと認知症の人の体験世界につきあっている。しかも、認知症の人から巻き上げたと思っていたお金を彼らの希望を叶えるために使ったりしていて、ミゲルの行いはこの映画のなかの救いだった。
● シニカルに振る舞っていたミゲルが、エミリオが貴重品を隠していた=自分が信用できない人間だと思われていたことにショックを受け、それまでの生き方を反省して愛を実践するようになる、というストーリーにカトリック文化らしさを感じた。
ミゲルはあの年代のスペイン人なので恐らくカトリックの洗礼は受けているけれど、教会には通ってはいない人と推測されるが、エミリオとの出会いから行動や考えが変容した、という「放蕩息子の帰還」の話でもあるし、エミリオは認知症でできることが少なくなってもミゲルの回心を引き起こした。一見何もできないような人であっても、その存在が無意味ということではない、というメッセージも含んでいるのかな、と思った。
その他
● この映画の内容を、役者が感情たっぷりに演じる実写版で観たとしたら、つらすぎると思う。普段はあまりアニメは見ないが、この映画の場合は、やわらかい印象の手描き風の絵とユーモアを交えながら淡々と進むストーリーが、あまりにも厳しい現実への直視をかなり緩和させてくれたのではないか。
● 施設について、冷たく非人間的な雰囲気が強調されているのは、恐らく実態通りではなく、入所者の主観だと思う。客観的には問題がないように見える場所や対応でも、本人にとってどうかへの配慮の重要性を再認識した。
● 高齢者を施設に入れる下の世代が一方的にひどい訳ではないことを示すシーンもあり、一方的な断罪ではなく、目配りの利いた作品だと思った。
[一番印象に残ったエピソード]
回答はかなりバラバラでしたが、「冒頭のシーン」と「エンドロールの後」をあげた人が多かったです。
最初と最後なので、つい気が緩み、油断しがちですが、これから見る方はお見逃しなく!
[普段アニメーション映画を観ますか]
よく観る 33.3%
たまに観る程度 25%
ほとんど観ない 41.7%
ほとんど観ないという人が40%強でしたが、「観てよかった」という感想が多かったです。
「アニメだから」という理由で敬遠してしまうのは、もったいないなと思いました(自戒を込めて)。
[この映画の弊社社員のおすすめ度]
すすめたい 66.7%
なんともいえない 33.3%
おすすめしない 0%
~ ・ ~ ・ ~
「しわ」はコミック版(「皺」)も出版されています。漫画ならではの表現がうまく生かされていて、映画とはまた違った独特の空気を感じられます。
こちらもお勧めです。