パーソン・センタード・ケアを考える認知症模擬患者とのシミュレーション研修

設定に沿ってせん妄発症を熱演する認知症模擬患者(SP)


本研修会は鈴木みずえ氏(浜松医科大学医学部看護学科教授)と静岡県内の認知症看護認定看護師・老人看護専門看護師らによる「認知症ケアを考える会」が主催したもので、10病院から認知症ケアのキーパーソンになる看護師18人が参加しました(2016.6.19)。

おばあちゃん劇団が“認知症のある入院患者”を演じるシミュレーション

午前中の鈴木氏によるパーソン・センタード・ケアについての講義の後、午後から本研修のメインである認知症模擬患者(以下:SP[Simulated Patient])とのシミュレーションが行われました。

入院中の認知症高齢者は身体的な負荷が加わることでせん妄を併発して認知機能が低下しがちなことから、シナリオには「入院中の認知症患者が夜間にせん妄を起こした事例」が用意されました。SPとしては浜松市内の演劇サークル「おばあちゃん劇団」の団員8人(60〜80代の元気な高齢者)が参加。普段は民話の公演をしている劇団ですが、鈴木氏との出会いがきっかけで3年前から認知症等の疾患の学習を重ね、SPとしても活動するようになり、看護学生から病院看護師向けまでさまざまな状況の“高齢者役”の演技で研修等にも協力しています。

事前準備で点滴の管を腕に貼り付け、ミトンを手にはめたSPたちは「意外と重たいね」「今日は練習だから手だけ(の拘束)なのよね。本当に入院して全身こんなことをされたときに“こんなの嫌だ”と言ってもわかってもらえるのかな。わかってもらうために頑張るわ」と感想や意気込みを述べましたた。「自宅で転倒・骨折して救急搬送され、入院中の竜西みさゑさん(80歳/アルツハイマー型軽度認知症/要介護2)が、骨折手術前の夜中にせん妄を発症した」というシナリオの下、リーダー役とスタッフ役の2人1組で1人のSPに対応するシミュレーションを、1組15分ずつ実施しました(冒頭の写真)。

同じ“帰りたいと大声で繰り返す”設定でも、SPによって「息子を迎えに呼んできて!」「大事なお菓子を家に忘れたから帰る」などさまざまなアドリブが出ます。さらに幻視の訴えも加わり、「虫が動いている。こんなところにいられない!」「ネズミが出た」と大声が上がりました。これに対し、看護師が「恐かったですね。ちょっと虫を取ってみたけど……少なくなったかしら」「ネズミ捕りの業者を呼んできます」と“その人”に合わせた声かけをし、「ミトンを外す」「痛む場所をさする」など不快感を緩和していく対応が続くとSPも少しずつ安心した状態になり、落ち着いていきました。

高齢者個々の視点から柔軟なかかわり方の大切さをフィードバック

シミュレーション後の振り返りでは、それぞれのSPの多様な視点からの感想を聞くことができました。例えば看護師2人から話しかけられることについては「もう1人が手を握ってくれて安心できた」「私は2人いると圧迫感があって嫌だった」「1人が手を、もう1人が肩をさすってくれたので眠くなった」など。ミトンによる一時的な拘束については「“嫌だ”と言ったらすぐに外してくれてよかった」「腰の痛むところをずっとさすってくれたから手のほうは気にならなかった」「私の母も入院でミトンをつけていたときはこんな気持ちだったのかなと思った」など。中には「看護師さんに“触らないで!”と最初に言ったら、その後は本当に触れられなかったので今度は寂しくなった」との感想もあり、同じ看護師がかかわり続けることで患者の思いも変化していく可能性が示されました。

シミュレーションの振り返り後に全員で記念撮影


看護師たちからは「シミュレーションで焦りの気持ちが出てしまった」「看護師同士で行うロールプレイとまったく違って、自分のケアを振り返る機会をいただけるので新鮮」という声があった一方、ケアの基本は理解できているためか、SPの声はおおむね“ベテラン看護師だから対応方法に問題は感じなかった”との感想でした。SPからは「新人看護師さんが相手ならもっと暴れる演技ができたと思うんだけど、今日の看護師さんたちは“かゆいところに手が届く”対応だったので暴れるのは難しかったな」「今日は看護師さんを困らせようと思って来ましたが、わがままを言っても皆さんが優しく接してくれるから、本当は落ち着いているのに“帰りたい”というセリフを言わなくちゃいけなくて私が困りました」と笑いを誘う感想もありました。

病院・病棟で学びを生かしていくためのアクションプランを話し合う

看護師同士のグループワークでは、急性期病院で認知症ケアに関する理解を広げ、認知症高齢者への看護を工夫していくためのアクションプランを作成しました。研修会冒頭では「病棟で実際にケアするときは自信をなくしてしまいがち」「態度や倫理などの抽象的な話ではなく“すぐに効果の出る話”でないとスタッフに興味を持ってもらえない」と悩みを挙げていた参加者たちも、一日の成果を基に「心に余裕を持って対応すると相手にも伝わるのでは」「学びを院内に広げていくための方法を他の病院のナースと意見交換できた」「チームで工夫できることをスタッフに伝えて共有したい」といった感想を寄せました。そしてグループワークで書き上げたアクションプランを撮影したり見返したりしながら「院内全体のケアを向上させたい!」と口々に決意を表明しました。

鈴木氏は「まずは研修会を通して“あきらめない気持ち”を持つことが重要。そして研修参加者が増えると認知症ケアの質向上の足がかりになりますから、次は部署のスタッフを研修会に出していただき、ぜひ仲間をつくってください」と呼びかけ、締めくくりました。

(月刊「看護」編集部)

──月刊「看護」第68巻 第12号 p.90-91より転載

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