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認知症本人大使「希望大使」任命イベント~私たち本人といっしょに希望の輪を広げよう

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認知症本人大使「希望大使」任命イベント~私たち本人といっしょに希望の輪を広げよう

2020年1月20日(月)、認知症への関心と理解を深めるための普及・啓発を行う「希望大使」を任命する「認知症本人大使『希望大使』任命イベント~私たち本人といっしょに希望の輪を広げよう~」を、厚生労働省が、全社協・灘尾ホール(東京都千代田区)で開催しました。

 

希望大使5人が参加して行われた「希望ミーティング」

 

司会を務めた町亞聖さん。認知症の母を介護した経験を持つ

 

任命証授与の後、「希望大使」の代表として藤田和子さんと渡邊康平さんがスピーチ。公益社団法人認知症の人と家族の会代表理事の鈴木森夫氏と東京都健康長寿医療センター研究所研究部長の粟田主一氏によるゲストスピーチ、クリスティーン・ブライデン氏のビデオメッセージの上映が行われた後、永田久美子氏(認知症介護研究・研修東京センター)がファシリテーターを務め、希望大使5人による希望ミーティングが行われました。

 

イベントでは、社会全体の認知症に対する理解は進んできている一方、まだ誤解や偏見が残っていること、この現状を打開するには、認知症当事者が前を向いて生き、自らの言葉で発信していくこと、医療者も含めたすべての人はその言葉に耳を傾け学ぶ姿勢を持つ必要があるということが示されました。

 

5人の希望大使の紹介

丹野智文さん

(宮城県仙台市在住、45歳)

 

自動車販売会社でセールスマンとして活躍していた39歳のとき、若年性アルツハイマー型認知症と診断され、現在は認知症本人が自身の体験や経験を基に当事者からの相談を受ける「おれんじドア」の代表を務めています。


希望ミーティングでは、「認知症になっても前を向いて生きている人がいることを知ってもらうことが大事。認知症になってもこうやって生きられると知ってもらうことがすべての人の備えになる」と指摘。当事者に向けては、「失敗してもいいんです。失敗しないようにすると成功体験ができないから。そして、私たちと一緒に声をあげてほしい」と呼びかけました。

藤田和子さん

(鳥取県鳥取市在住、58歳)

 

看護師として働いていた45歳のとき、若年性アルツハイマー型認知症と診断され、現在は一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ代表理事を務めています。

 

代表スピーチでは「難しさを感じながらも前を向いて生きていく姿を見てほしい。今は認知症になっていない人に、認知症になっても楽しく生きていけると感じてほしい」と大使としての抱負を語ました。また、看護職に向けては「ほかの病気と同じように認知症も本人から学べることは多い。もっと地域などで認知症の人と積極的にかかわってほしい」というアドバイスをいただきました。

柿下秋男さん

(東京都品川区在住、66歳)

 

東京教育大学(現・筑波大学)在学中、ボート競技でモントリオールオリンピックに出場したアスリート。青果会社在職中にMCI(軽度認知障害)の診断を受け、1年半後、62歳で退職しました。現在は初期の認知症ですが、清掃や見守りなどの社会貢献活動のほか、菓子の製造、花壇の整備、新聞配達などの就労訓練にも積極的に取り組んでいます。

 

希望ミーティングでは、「認知症になっても楽しいことや、新しい出会いもある。勉強し直すきっかけにもなり、成長することもできている」と前向きに考える姿勢を示しました。

春原治子さん

(長野県上田市在住、76歳)

 

教職を定年退職後、小学校の授業支援や地域初の放課後児童広場を立ち上げた方。認知症診断後も近隣のふれあいサロンや特別養護老人ホームのボランティアなど、地域活動を継続しています。

 

希望ミーティングでは「認知症になっても怖くないということが大事。認知症であることを発信でき、困ったら助けを求められるよう、地域でのつながりをつくっていってください。私自身も家の中に閉じこもることなく、できる活動にはどんどん参加して、地域でのつながりをもっと広げていきたい」と抱負を語りました。

渡邊康平さん

(香川県観音寺市在住、77歳)

 

日本電信電話公社(現NTT)の機械課を経て、50歳から観音寺民主商工会に勤務。72歳で脳血管性認知症と診断された後は、うつになり体重が23kg落ちました。近所の人や知り合いに認知症であることを告げると、「血筋のせいだ」と心ない言葉を浴びせられたと言います。しかしある時、渡邊さんは丹野智文さんが講演で力強く語りかける姿を見て認知症に対する見方が変わり、「自分もこんなふうに生きたい」と思うようになりました。2017年6月からは三豊市立西香川病院(認知症疾患医療センター)の非常勤相談員として、院内の認知症カフェに通う当事者の不安や悩みを聴き、よりよく生きるための応援をしています。

 

希望ミーティングでは、「認知症のことをもっと知ってもらえれば見る目が変わる。皆さんの力を貸してほしい」と訴えました。

 

 

私は誰になっていくの? アルツハイマー病者からみた世界』の著者、クリスティーン・ブライデン氏がオーストラリアからビデオメッセージを寄せました。同書は日本語版も出版され、日本において認知症当事者が語り始めるきかっけとなったものです。

 

ビデオメッセージでは、孫の成長を見守り、船旅にも出かけ、博士号も取得するなど、充実した近況を報告し、「認知症の人たちが生きる意味をもって暮らせる社会の構築に向けて、日本が世界を先導してほしい」と希望大使の活躍に期待感を示しました。

 

ゲストスピーチに登壇した鈴木森夫氏。クリスティーン・ブライデンさんから始まった認知症当事者からの発信のリレーが積み重なり今日を迎えたことを説明。しかし、まだ誤解は解消されていないとし、「希望大使の活躍により日本の施策が当事者中心となっていくことを願う」とした。

ゲストスピーチに登壇した粟田主一氏。2004年に認知症と呼称が変わっても「何もできなくなる」という偏見は解消されなかったと指摘。一方、当事者同士が語り合い意見を出し合う機会が増え、2018年には日本認知症本人ワーキンググループから「認知症とともに生きる希望宣言」が出されたことなどを紹介した。

 

最後に円陣を組み、大使として前を向いて生き、自らの言葉で発信していくことを誓いました。

 

 

撮影:浦田 圭子 文責:浜田 拓男(編集部)

(看護2020年4月号GRAPHより再構成)

2020年03月17日