■ 関係性構築に向けた取り組み
Aさんは、私たちから見ると些細なことで暴言を吐くため、職員はなかなかAさんに歩み寄れず、恐る恐る接していました。
そこで筆者は、Aさんの部屋に入り、「少し話を聞きたい」と伝え、Aさんの承諾を得た上で質問をしました。Aさんは、診断時に自分の病気についてどう理解し、どのように感じたのかなど、1つひとつの質問に対し、丁寧に答えてくれました。
当時の記録を紹介します。
――最初の診断時はどのように理解しましたか?
「この病気になったのはまだ60代だよ。医者から進行が早いって言われて……すごく怖いんだ」
――現在は病気をどのように受け止めていますか?
「手を上げたり、大声を出したりするときは、自分でもどうしても止められないんだ。我慢しなきゃって思うけれど、どうしても止められない」
「いつも後悔している。もう絶対しないって思うけれど、それでもまたやってしまう。でも、殴っても全然すっきりするわけではない」
これらの1つひとつの言葉から、Aさんの苦悩がわかると思います。一般に前頭側頭型認知症の人は病識がないと言われていますが、少なくとも私たちが出会ったころのAさんにはあったように感じます。一生懸命に症状をコントロールしようとしているのもわかりました。
このころから、施設のちょっとしたイベントにはAさんにも声をかけ、短い時間、他利用者と一緒に過ごしてもらいました。筆者もAさんの個室を積極的に訪問するようにしました。