3)認知症ケアの場——さまざまな介護サービス
マレーシアでは、認知症専門施設は多くありませんが、自宅での介護のほか、近年、都市部を中心に基本的なケアと機能の維持を目的とした、認知症者と家族のための介護サービスが進出しています。
2015年のデータですが、調査対象である認知症者の半数は外部サービスの利用がなく、残り半数の利用サービスは住込メイドとその他居住系サービスに分かれる、という結果が出ています8)。
費用は、平均で住込メイド RM 960/月(約3.1万円)、居住系サービス RM1,917/月(約6.2万円)、デイケア RM 52.5/日(約0.17万円)となっています注1)。
注1:RM(マレーシア リンギット)=32.26円(2015年2月)
■マレーシア アルツハイマー病財団
1997年にNPO 法人として設立された認知症患者と家族の支援団体である「マレーシア アルツハイマー病財団」9)(図3)は、Rumah Alzheimer’s Day Care Centre(PJACC)(デイケアセンター)を運営しています。認知症以外の患者は受け入れておらず、専門の訓練を受けた看護師の下、看護師1:患者4の割合で、非薬物療法を中心に健康維持をはかっています。
また、医療介護従事者やボランティアのトレーニングを行うResourse Training Centerでは、Person-Centered Careアプローチを使用した対話型トレーニングなどが行われています。
2017年には、Atria ADFM Community Corner(AACC)がオープンし、認知症患者と家族を対象とした講演やセッション、アクティビティなどによる情報提供や相談の場となっています。
■ Caring With You Dementia Enrichment Center
クアラルンプールにある「Caring With You Dementia Enrichment Center」は、介護者サポート含むアートセラピーやアクティビティをとおした「個人を中心としたエンリッチメントプログラム(Person-centered enrichment program)」を採用しています。
医療者は、オーストラリアとイギリスの認定認知症ケアの資格(certified dementia care professionals with qualifications from care organizations in Australia and the UK)を持ち、オーストラリアとイギリスの認知症ケア協会から専門医療認定を受けています。
設立者のDeidre Lowは、認知症の母親の介護のために仕事を辞め、シンガポールから帰国しました。当初働きながら、専任メイドと看護師を雇って自宅で介護していましたが、精神的な支援が行き届かず電話で呼び出されていた、と振り返っています。
その後、施設を見学するものの、ただ見守っているだけの環境に失望。そこから一念発起し、仲間とともに海外の認知症者のための施設を視察、2017年に自らこの施設をオープンしたといいます。
自身の経験から、センターでは介護に悩む家族介護者の休息、サポートにも力を入れています10、11)。
■ Homage
2016年にシンガポールで設立され、2019年からマレーシアで訪問介護・看護サービスの提供を始めた「Homage」は、脳血管疾患、パーキンソン病、がんなど個別の疾患に対応した訪問を行っており、各段階を考慮した認知症患者への訪問看護にも24時間対応しています12)。
■ Care concierge
従来の外国人の家事労働者が主である専任メイドでは解決できなかった専門的なケアを行うことを謳い、看護師、セラピスト,介護者を自宅へ派遣し、入院後や高齢者のケアを行う事業を行っています13)。
認知症など特別なケアを必要とする場合で、住み込み/デイケア RM270/日(約0.68万円)、RM5,200/月(約13.2万円)(週6日)となっています。注2)
注2:RM=25.42円(2020年8月)