──身体機能のリハ専門職である理学療法士は、認知症と結びつくイメージがあまりないのですが、川畑さんが認知症に興味を持たれたのはなぜでしょうか。
リハ職のうち、理学療法士(PT)は身体機能の、作業療法士(OT)は日常生活動作の、
言語聴覚士(ST)は言語・聴覚・嚥下機能の専門職という職域がベースにあります。
職域で専門性を発揮することは大切なことですが、どこの病院や施設にもPT、OT、STが必ず揃っているという訳でもありません。
実際に、大腿骨頚部骨折で入院した患者さんが認知症を患っており、食事の時によくムセているというケースは多くあり、必要なリハビリには「セラピスト」として携わることが大切だと思っています。
私が認知症ケアに目が向くようになったのは、理学療法士としてある認知症の患者さんにHDS-R *1を行ったときの経験がきっかけです。
*1 HDS-R 改訂長谷川式認知症スケール
認知症の疑い、認知機能の低下を早期に発見することができる簡易検査手法。所要時間10~15分ほどの口頭形式で、名前、生年月日、年齢、場所、人間関係、簡単な計算などの設問に答える。30点満点中20点以下で認知症の疑いがあると判定される。
その方に「ここはどこですか?」と場所を尋ねる質問をしたのですが、キョロキョロするばかりで一向に答えてくれません。
私は答えてもらおうと一生懸命聞くんですが、相手はまったく集中してくれない。何とかこちらに注意を向けてほしくて、私は自分の膝を叩きながら「ここはどこですか?ここですよ!ここ!」と聞いたんです。
そうしたら、いきなり「ここは膝!」という答えが返ってきたんですよ。
一瞬呆然としましたが、そう、答えはあっていたんです。
私はそれまで、認知症の人は何もわからないだろうと思っていたのですが、それは間違いだったことに気づきました。そしてこのときの経験を契機に、認知症の人をもっと理解したいと思うようになりました。
認知症の人に関心を持って観察していくと、○○という言い回しだと伝わらないのに、××と言い変えるとわかったり、どうやっても伝わらなかったことが方言やジェスチャーで示すとわかったりとか、次々と不思議なことが起こり、興味は尽きることがありません。