Column
現在、病院や介護施設における身体拘束が社会的に注目されています。認知症の人においても、この問題は例外ではありません。
中西らが行った、全国の急性期および回復期機能の病床を有する病院(100床以上)を対象とした調査1)によると、一般病院の入院患者の14.6%、認知症疑いの患者に限れば44.8%が調査日時点で身体拘束を受けているという結果が明らかとなっています。
認知症の人の自由とリスクのバランスをどのように考えればよいのでしょうか。今回も、弊社書籍『看護倫理を考える言葉』(小西恵美子著)より、認知症の人への看護倫理について考えてみましょう。
以下に、日本における看護倫理の誕生と成長に大きく貢献したアンJ・デービス先生(以下、アン先生)の言葉を紹介します。
私たちは、家族あるいはナースとして、
認知症の方を心にかけ、
一定の自由を守りながら同時に安全を保つにはどうするべきでしょうか
アンJ・デービス (AnneJ.Davis)
長野県看護大学創立20周年記念国際シンポジウム「認知症と倫理2,3)」の2つ目のテーマは「認知症者の自由とリスクのバランス」。上記は、その際の会場への問いかけの言葉です。
アン先生は、「大人に行動の自由があるのは、ある状況におけるリスクを評価でき、ほぼ確実に危険を避ける能力があるからです。認知症ではこの能力が時と共に衰退してゆきます」と述べ、「安全」と「自由」という2つの価値が対立しうる状況について、次のレクチャーをしました。
講演の結びは次のとおりでした。
「最後に個人的なお話をします。今、私は高齢者アパートに住んでいて、認知症の方もいます。介護フロアもあり、何人かはそこで生活していますが、その他の認知症の方は、私たちと同じ自立生活用のフロアに住んでいるので、その方たちとはいつも出会います。そして多くのことをその方々から学んでいます。
皆が年をとっていくので、私たちは、認知症の人にもっと優しくもっと思いやりをもとうと学んできました。私たちは思います。そうならなかったのは神様のおかげだと。だって皆、認知症になる可能性があるのだから。だからそうなった人を助けようと」
アン先生の口癖は「倫理とは、語り考えること」。講演ではいつもたくさんの問いかけをして私たちに宿題を残します。しかし今回は、この結びそのものに、回答があると思いました。
<注釈> アンJ・デービス(AnneJ. Davis):1977年初来日。1995-2001年、長野県看護大学教授。 日本における看護倫理の誕生と成長に大きく貢献し、2010年旭日中綬章受賞。「世界の看護倫理の母」と称されている。 <文献> 1)Int Psychogeriatr. 2017[PMID:29122058]2)アンJ・デービス:認知症と倫理.長野県看護大学創立20周年記念国際シンポジウム.2014年6月21日. 3)AnneJ.Davis: Dementia and Ethics. 長野県看護大学紀要17.16-24.2015.
2019年03月25日