第20回日本認知症ケア学会大会リポート①

去る2019年5月25日(土)、26日(日)の2日間、「認知症という希望」をテーマに、国立京都国際会館(京都市)にて第20回日本認知症ケア学会大会(繁田雅弘 大会長)が開催されました。周囲を山に囲まれ、緑まぶしい絶好のロケーションの中、お天気にも恵まれ、2日間で6000人を超える参加者が集まって活発な情報交換や人材交流を展開しました。

ここでは当社の編集部員が任意に取材した演題についてリポートします。

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シンポジウム2
社会は認知症ケアと医療をどのように見てきたのだろうか

座長:
長田久雄(桜美林大学大学院)
・三重野英子(大分大学医学部)
シンポジスト:
・猪熊律子(読売新聞東京本社編集委員)「認知症の報道を通じて見えてきたもの・感じること」
・平田知弘(NPO法人認知症ラボ、NPO法人認知症フレンドシップクラブ)「認知症ケアの歴史」
・竹中一真(LM総合法律事務所)「「認知症ケアと医療」の現場で生じる紛争・トラブル」
・井口高志(東京大学人文社会系研究科社会学)「認知症ケア・医療の社会学的観察と実践」
・北中淳子(慶応義塾大学文学部)「人類学の視点から」

認知症の人や家族が地域の中で「その人らしく」生活できるよう、これまで医療・介護・福祉専門職が試行錯誤を重ねながら行ってきた姿を“社会”はどのように見てきたのか、報道、メディア、法律家、社会学、人類学それぞれの立場から論じられた。ここでは、報道、メディア、法律家の立場からの講演を報告する。

● 認知症の報道を通じて見えてきたもの・感じること

猪熊氏は、長年報道の立場から認知症の取材を重ねてきた中で、「認知症とは日々進歩するもの、発展途上段階のものであるという印象を持っている」と述べた。「痴呆症から認知症」「認知症患者から認知症の人」「問題行動からBPSD」といった認知症関連用語の変化だけでなく、自らの報道においても、「認知症は病気」から、「認知症は脳の病気などによって認知機能が障害される病態、症状」だと強調するように変化している、と言う。

また「昨今では“認知症当事者の声”を発信する機会が増えている」と述べ、「認知症は医療や介護にとどまらない、生活全体の課題」と強調。「高齢化が進めば、認知症有病率は高まる。他人事ではない、社会事という観点をもって、新聞記者という立場でどのように、当事者らの声や真実を報道していくかを考えたい」と語った。

● 認知症ケアの歴史:“何もわからなくなる”から“パートナー”へ

元NHKディレクターで、認知症関連番組を手がけた経験のある平田氏は、ディレクター時代にある視聴者から寄せられたコメントを通して、一番つらいはずの当事者本人が自分自身を責めている現状を知り、認知症報道のあり方を考えるきっかけになったと言う。

近年の認知症報道のキーワードとして「認知症を防ぐ」「ぼけない」「予防」の3つがあげられるが、そこから「認知症は怖いもの」という固定化されたイメージと、「認知症にはなりたくない」といった人々の思いが汲み取れる。このようなネガティブイメージはメディアの功罪とも言えるのではないか、と指摘した。

また、「本人が感じていることと、周りが見ている認知症の人の姿にはギャップがある」とし、周囲は「物忘れがある」と考えても、認知症の人は記憶がしづらいので本人的には「忘れる」という体験をしていない可能性がある。本人にとっては「忘れた」記憶がないにもかかわらず、物忘れを指摘されることから、苛立ちや暴言といった行動・心理症状の出現につながると述べ、本人の体験している世界を推察した上で、一つ一つの行動をひもといていくことの重要性を訴えた。

● 「認知症ケアと医療」の現場で生じる紛争・トラブル

「認知症ケアと医療」の現場で生じる紛争・トラブルには、大きく分けて①家族・施設間の対立によるケース、②家族(親族)間の対立に施設が巻き込まれるケース、の2つがあると竹中氏は指摘した。家族・施設間で紛争が発生する背景としては、虐待や徘徊、転倒、転落、誤嚥、誤薬、溺死などの事故が発生した際に、家族への説明を十分にしなかったことがあげられる。これにより感情的なしこりが生じるケースも多い、と言う。

最近は、施設と家族の間で合意がなされても、保険会社から保険金の支払いを拒否され、紛争に発展したケースもある。話し合いで合意とならず、裁判となった場合は、施設としてどのような義務を尽くすべきであったか、施設側がどのような事実を認識していたか、という点が争点となる。紛争を予防するためには、施設側に過失がなくとも、丁寧な説明を心がけ、状況によっては弁護士などの専門家を含めた第三者委員会を設置することを提案した。

自主企画11
地域包括医療ケアにおける、アザラシ型ロボット・パロによる認知症ケアと介護負担の軽減化

登壇者:
井上 薫(首都大学東京)
・中島悌吾(岡山県岡山市)
・柴田崇徳(産業技術総合研究所)

● アザラシ型ロボット・パロとは

アザラシ型ロボット・パロは、ロボットセラピーを目指し開発された動物型ロボットである。2005年3月から日本で市販され、2009年以降は欧米、アジア、オセアニア、中東の30カ国以上で5000体以上が活用されている。日本では「福祉用具」の扱いであるが、米国ではFDAが「神経学的セラピー用医療機器」に承認したことで医療福祉施設で利用されるようになった。さらに公的医療保険のメディケアの保険適用にもなっている。

パロの活用により、アニマルセラピーによる心理的・生理的・社会的利点を得られると同時に、実際の動物をセラピーに用いる際に問題となる点(アレルギー、人畜感染症、咬み付き・ひっかき、住居問題等)をクリアできる。

利用者からのフィードバックを受けてパロの改良を繰り返し、現在は第9世代である。重さは2.5kg。これは新生児と同じ体重であり、ヒトの脳を活性化させるという。人工毛皮は制菌加工がなされいる。また10年以上継続して使用することを想定し、壊れにくい構造になっている。搭載されている人工知能は、人との温かい触れ合いを通して、飼い主好みの性格になっていくという。

セラピー効果としては、QOLの向上、うつ・孤独感・不安・睡眠の質の改善、リハビリの動機づけ、ストレス低減、血圧低下、コミュニケーション能力・社会性の向上などがあげられ、介護者を困らせているBPSDの発生を抑え、介護負担が減少することが示されている。

● 岡山市での実証実験

岡山市では2013年度より「総合特区制度」を利用し、最先端介護機器貸与モデル事業を行っている。これは、介護保険の適用になっていない福祉用具11種類を、介護保険と同じ1割負担で希望者(在宅の要介護1~5の人)に貸出する事業で、パロもその対象機器である。

これまでの利用者はのべ650人、年齢は80歳代が約6割で、男女比は3/4を女性が占めている。平均レンタル期間は9.72か月で、2ヶ月以内に解約した人は約3割だった。パロ初見時の反応が芳しくなかった(家族に促されても触らないなど)人は、ほぼ全員が3ヶ月以内に解約していた。よって、初見時の反応を見て、パロの貸し出しが有効かどうかのスクリーニングが必要である。

これまで行われた海外でのランダム化比較試験では、パロの効果が見込める使用継続期間は6ヶ月以上という結果が出ており、利用者には6ヶ月以上の使用を推進していきたい。

今後は利用者をさらに幅広い層に広げ、長期間のデータを収集していくことで、より詳細な効果分析を行い、将来的には他国のような保険適用化や公的医療福祉制度への組み込みを目指すことを考えている。

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会場に展示されていたパロを抱っこさせてもらった。腕にすっぽりと収まるサイズと程よい重さ、そしてつぶらな瞳。鳴き声は本物のタテゴトアザラシの赤ちゃんの声だという。現在は医療福祉関連施設でセラピー目的に導入されている事例が多いが、宇宙飛行士のメンタルヘルスサポートへの応用も研究中とのこと。ストレスフルなことに満ちている現代社会においては、パロに癒やされたい人は想像以上に多いかもしれない。

(レポートの後半はこちらから)

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