認知症をもつ人とその家族の生活を支え
地域・社会をよりよくしていきたいと考えている
医療・看護・介護専門職のためのサイト
認知症を理解する~②レビー小体型認知症(終の棲家で生活を支える看護)

Column

認知症を理解する~②レビー小体型認知症(終の棲家で生活を支える看護)


[執筆]

松井 典子
社会福祉法人 新生寿会小規模多機能型居宅介護
ありすの杜きのこ南麻布/保健師・看護師

 

[略歴]

看護学系学科助手として6年勤務後、社会福祉法人新生寿会ありすの杜きのこ南麻布入職。

認知症対応型通所介護事業所・短期入所生活介護事業所勤務を経て、現職。


 

前回(認知症を理解する①)は前頭側頭型認知症(Frontotemporal Dementia、FTD)について記しました。

今回は前頭側頭型認知症とならんで特徴的な認知症である、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies、DLB)について、事例を交えてご紹介します。

 

レビー小体型認知症とは

レビー小体型認知症は老年期に認知症状を呈する病気の1つですが、早い人では40歳ころから発症します。変性性(脳の神経細胞が原因不明の減少をする病態)の認知症ではアルツハイマー型認知症に次いで多く、高齢者の認知症の約20%を占めます。

 

記憶障害を中心とする認知症状と、幻視、動作が遅くなり転びやすくなるパーキンソン症状などがみられます。しかし、本人には病気であるという認識がありません。

女性より男性のほうが約2倍発症しやすく、ほかの認知症と比べて進行が早いのが特徴です。

 

レビー小体型認知症が疑われると、頭部MRI検査と脳の血流をみるSPECT検査が行われます。頭部MRI検査では脳全体の萎縮を認めますが、アルツハイマー型認知症と比較すると海馬の萎縮は軽度です。またSPECT検査では頭頂葉・側頭葉・後頭葉で血流の低下が見られます。脳の神経細胞が徐々に減っていき、特に記憶に関連した側頭葉と情報を処理する後頭葉が萎縮するため、幻視を見やすいと考えられています。

レビー小体型認知症の症状

レビー小体型認知症の症状を以下に示します。特に幻視とパーキンソン症状は、ほかの認知症の初期には見られないため、鑑別に有用です。

 

幻視
レビー小体型認知症では、発症初期から「知らない人がいる」「壁に虫が這っている」「子どもが枕元に座っている」といった、実際にはないものが生々しく見える幻視がしばしば出現します。これはレビー小体型認知症に特徴的な症状で、特に夜間に表れます。

 

パーキンソン症状
パーキンソン病に似た運動障害で、体が固くなり動きづらい、手が震える、急に止まれないといった症状が出現します。そのため、レビー小体型認知症の人は転倒のリスクが高く、寝たきりになることもあります。
また、自律神経障害もみられ、便秘や尿失禁、起立性低血圧などが表れます。

 

認知機能の変動
アルツハイマー型認知症は徐々に症状が進行していきますが、レビー小体型認知症は時間帯や日によって認知機能に変動があり、調子のよいときと悪いときとを繰り返しながら進行していきます。

物事を理解・判断できるときがある一方で、ぼーっとして極端に理解力・判断力が低下しているときがあります。

しかし、家族や介護者は本当はできるのにしないのではないかと誤解し、怒ったり無理強いしたりしてしまうことがあるので、注意が必要です。

 

レム睡眠行動障害
「眠れない」などと訴えるものの実際には寝ており、その最中に暴れたり大声を出したりします。これは、レム睡眠行動障害と呼ばれるもので、レビー小体型認知症にはかなりの頻度でみられ、診断を示唆する症状の1つです。
健康な人は、レム睡眠中に骨格筋が弛緩されるので、夢の中の行動をそのままとることはありませんが、レム睡眠行動障害のある人は筋弛緩がみられないため、睡眠中に夢のままに行動することがあります。まるで現実のような生々しい夢を見て、寝言を言う・大声で叫ぶ・寝具をまさぐるなど夢幻様行動や、ベッドから飛び出す・暴力を振るうなどの異常行動を起こします。本人には睡眠中に起こったエピソードの記憶はありません。
レム睡眠行動障害の確定診断は、脳波・眼球運動・筋電図などを記録するポリソムノグラフィ検査によって行われます。

 

抗精神病薬の感受性の亢進
抗精神病薬の感受性の亢進も、看護職が理解しておきたいレビー小体型認知症の重要な特徴です。
レビー小体型認知症になると、抗精神病薬を少量服用しただけでもパーキンソン症状の急激な出現・増悪、嚥下障害、過鎮静、意識障害、悪性症候群などを起こすことがあります。したがって、処方が変更された際は、これらの症状の出現に注意しましょう。

 

事例の概要とケアの実際

レビー小体型認知症の人へのケアで特に注意が必要なのは転倒予防です。転倒を防ぐには、リハビリテーションや散歩などを行い、運動能力の衰えを遅らせるのが効果的です。また、筋固縮の急激な進行が多くみられるため、リハビリやマッサージの早めの導入が大切です。 

幻視については、本人には実際にはっきりと見えていることから、「そんな人はいない」「見えない」などと否定してはいけません。場合によっては、否定することによって、本人との信頼関係が一気に崩れることがあります。疾患によって見えていることを理解し、幻視が見えなくなる方法を一緒に考えます。不安感がとても強いときは1人にしないといった対応も必要です。

 

幻視への対応は、その経験がないとわからないと思います。そこで事例を基に具体的な対応のあり方を紹介します。

 

〈事例〉Bさん/82歳、女性/レビー小体型認知症/要介護1

 

Bさんは非常に裕福な家庭に生まれ、大学卒業後26歳で結婚。1男1女をもうける。結婚後も経済的に恵まれた生活を送るが、X-2年に夫が逝去し、以後、持ちビルの4階で1人で生活している。

 

X年5月ごろに振り込み詐欺の電話を受けたり、財布をなくしたりすることがあった。その直後から「自宅の外から誰かに見られている」「家に人が侵入した」「話し声が聞こえる」などの幻視が出現。被注察感により、夜間、自宅で過ごすことができなくなり、友人宅を転々とする生活を送るようになった。友人から家族に相談があり、同年5月29日、家族の付き添いの下で大学病院に入院した。

 

薬物療法により妄想が軽減し、6月29日、退院となった。Bさんは、日中は幻視が出現しないことから自宅に1人で過ごし、簡単な炊事を含む家事を行い、入浴も自立。高度な技術が求められる人形づくりなどをしながら過ごしていた。

しかし、夜になると「窓の外に人が立っている」「エアコンの送風口や部屋の窓から赤い光が出ている」などの幻視が出現。そのたびにBさんは警察に通報し、警察官が到着すると、「もう帰ったみたいだから大丈夫です」などの返答を繰り返した。また、近隣のコンビニに助けを求めに行くこともあった。

夜間は自宅で1人になるのを嫌がり、次第に再び友人宅やホテルを転々とするようになったことから、大学病院の主治医に小規模多機能型居宅介護の利用を勧められた。

 

Bさんには病識がまったくないため、高齢者ケア施設への入所には強い抵抗を感じている。

 

小多機での支援の実際

 

Bさんは、日中は自宅で特に問題なく過ごしており、幻視が出現するのは夜間だけでした。そこで、夜間帯のみ小多機で過ごすスケジュールを立てました()。

 

高齢者ケア施設への入所に抵抗を示しているBさんに、「夕方、自宅にいるといろいろな人が来ると思うので、夕方だけこちら(小多機)で過ごしましょう」と説明し、了解を得ることができました。

 

夕方、車でBさんを迎えに行くと、Bさんは「誰かがついて来るかもしれないから、早く車を出して」などと言って車に乗り込み、小多機に来ることへの拒否はみられませんでした。

 

小多機では、他利用者と一緒に夕食を食べたり、簡単な家事(食器洗いや洗濯物たたみ)に参加したりするなどして過ごしました。しかし夜になり、居室(個室)で休んだところ、翌日、「エアコンの送風口から光が出ていた」「窓の外からいつもの人が見ていた」などと話し、「もう居室では寝たくない」と言いました。朝食は、他利用者と一緒にとり、通いの利用者が来る前に自宅に帰りました。

 

翌日以降、Bさんはリビングに布団を敷くなどして、自分の納得できる場所で寝ていました。最終的には、窓やエアコンのない廊下に簡易ベッドを置いて休むようになりました。

 

しかし、Bさんは納得できる場所で寝ていても、たびたび幻視を見ることがありました。その際は、スタッフが対処しました。

例えば、窓の外に人が見える場合は、スタッフが追い払うようなしぐさをすると、Bさんが「人が消える」と話したことから、人が見えた際は追い払うしぐさをしました。

壁にたくさんの虫が見える場合は、扇風機の風を当てると「虫が逃げていく」と話したことから、必要時に扇風機を回しました。

このような対応によって、Bさんは安心して休むことができるようになりました。

 

 

表 Bさんのスケジュール

17:00迎え
18:00夕食・内服
 下膳・食器洗い・洗濯物たたみ
20:00就寝
07:00起床
07:30朝食・内服
09:00送り

 

  小多機ならではの支援

 

Bさんにのようなスケジュールを組むことができたのは、小多機ならではの支援といえます。小多機ができる前の従来のサービスで対応するとなると、選択肢はショートステイなどの宿泊型サービスになりますが、比較的、認知機能が維持された自立度の高い人の利用は難しいでしょう。Bさんには、小多機のサービスによってストレスを最小限に抑える支援ができたと考えます。

 

また、小多機には看護師が従事しており、看護師は夜間帯に出現する幻視を実際に観察できることから、医療につなげやすい環境といえるでしょう。日ごろから、日中や夜間の状態を直接観察できるため、内服している薬の柔軟な変更も可能でした。

 

*  *  *

 

終の棲家で働く人は認知症高齢者によく出会うことでしょう。

介護保険法によれば、認知症の定義は「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態」とされています。

 

ここで注意しておきたいのは、あくまでも“日常生活に支障が生じる程度まで”という点です。記憶障害や認知機能の低下がみられても、日常生活に支障が生じなければ認知症とはいえないのです。したがって、終の棲家で認知症に対する介護を考えるときは、あくまでも記憶機能の改善や認知機能の向上をめざすのではなく、どうやって日常生活を組み立てるか、日常生活を送れるような支援を考えるかがポイントになります。

 

(コミュニティケア 251号 掲載)

2021年04月25日