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[認知症とメディア] 第1回社内鑑賞会 ◇ ドラマ「大恋愛」~あらすじ編
2018年秋のドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と」は、「感動した」「涙なしには見られない」「すばらしい」という絶賛の声が多く、最終回終了後は「大恋愛ロス」になった人も出たようです。タイトルどおり恋愛ドラマですが、主人公が「若年性アルツハイマー病」という設定で、医療ドラマ的要素もあります。
最近は若年性認知症をテーマにした映画やドラマがたびたびつくられており、若年性認知症という病気のことはそれなりに知られていると思いますが、国をあげて対策に乗り出している高齢者の認知症と比べれば、まだまだ正しく理解されているとはいえません。
評判が高かった一方で、ネット上では、ドラマに出てくる若年性認知症のいろいろなエピソードについて、「これはどうなの?」と疑問を投げかけている人もいました。
ドラマというフィクションで、かつ恋愛が主軸なので、いちいち目くじらを立てることはないとも思います。多少「え?」と思うところはあっても、これだけ多くの視聴者に感動を与えているということが、とりもなおさずこのドラマの質の高さを示しているのではないでしょうか。
しかしこのコーナーでは、あえてその「え?」を取り上げました。「大恋愛」を恋愛ドラマとしてではなく、医療的目線で見たときにどう感じるか、皆さまとともに考えてみたいと思います。
ちなみにこのドラマは、認知症ケアで有名な和光病院の院長先生が医療監修をされているので、ここで取り上げるのは医学的な疑問ではなく、社会的・道義的な面に関してです。
★このドラマについて、若年性認知症当事者の丹野智史さんがコラムを書かれていて、参考になります。
→ ヨミドクター「僕、認知症です~丹野智史44歳のノート」https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190121-OYTET50011/
以下はドラマのあらすじです。
あらすじを知っている方は、〈ドラマ「大恋愛」最終回を編集部員が見た 〉へ
まずは、ドラマのあらすじを簡単に、認知症に関係する要素のみに限定して紹介します。(全体のあらすじは、すでに多くのサイトで紹介されていますので、そちらでご確認ください。)
尚、軽度認知機能障害(MCI)と診断される
34歳の産婦人科の女医・北澤 尚は、引っ越し屋でアルバイトをしていた売れない小説家の間宮真司と出会い、恋に落ち、結婚する。
ある日、尚は交通事故に遭い、病院に運ばれる。そのとき撮影したMRI画像をたまたま見た認知症専門医・ 井原侑市が認知機能障害を疑い、長谷川式認知機能検査を行ったところ、軽度認知機能障害(MCI)と診断される。
尚、MCI患者のストーカー行為にあう
尚は認知症専門医である侑市の治療を受けているが、徐々に病状は進行している。
ある日、尚は自分と同様に侑市に治療を受けている患者、松尾公平に出会う。公平はMCIであることがわかった途端に妻に去られ、生きがいだった保育士の仕事も失い、人生に絶望していた。公平は尚に興味を持ち、執拗なストーキング行為を繰り返す。
「もう二度と尚には近づくな。今度近づいたらぶっ殺す」と言う真司に、「いいよ、殺しても。僕はもう失うものはないから。尚さんが欲しいんだ、真司をぶっ殺してもね」と公平は答えた。
尚の病気が若年性アルツハイマー病に進行
尚の病状は次第に悪化し、若年性アルツハイマー病と診断される。自分の将来を不安に思う尚に、真司は「子どもをつくろう」と言う。尚は最初ためらうが、やがて自分の生きた証、そして真司との愛の証を残したいと考えるようになり、子どもを産もうと決心する。そしてやがて男の子を授かったQuestion 1。
月日は過ぎ、親子3人で幸せに暮らしていたが、尚の病状は確実に進んでいた。ある日、子どもを連れて公園に遊びに行った尚は、子どものことを忘れ、子どもを公園に残したまま家に帰ってきてしまった。
尚、家出する
それから数日後、置き手紙を残して、尚は家を出て行った。
真司は思い当たる場所をあちこち探しまわり、警察にも相談するが動いてもらえず、なすすべなく月日は過ぎていった。
侑一が開発したMCI 治療薬が承認される
侑一が開発したMCI治療薬サティタミンは認知機能を回復させる画期的な新薬Question 2で、厚生労働省の承認を得たことがニュースや新聞で大きく報じられた。華々しく記者会見に臨む侑市の姿を見て、真司は「この薬の承認がもう何年か早ければ……」とつぶやく。
真司、病院で公平に再会する
尚を探すためにある病院に立ち寄った真司は、偶然、車いす姿の公平に出会う。真司ははっとするが、公平は真司のことをまったく覚えていないようだった。病状がかなり進行しており、食事をボロボロとこぼし、介護スタッフがつきっきりで世話をしている様子に、真司はショックを受ける。
尚、みつかる
8ヶ月が過ぎても尚の消息はわからないままだった。ところが、母親の提案でテレビの行方不明者捜索番組で情報提供を呼びかけたところ、すぐに反応があった。尚は海辺の町の小さな診療所の世話になっていて、そこの院長が連絡をくれたのである。
真司が診療所を訪れると、尚は外で洗濯物を干していた。真司は尚に声をかけたが、尚は真司が誰かわからないようだった。
院長は真司に、「ある日、診療所の前でずっと立っている女の人がいて、様子がおかしかったので声をかけたんです」と話し出した。尚は自分の病気のことを告げ、5000万円の通帳を差し出し、「自分が死ぬまでここに置いてほしい」と言ったという。
はじめのうちは診療の手伝いのようなこともしていたが、次第にそれも難しくなり、自分のことも自分ではできなくなってきたので、今は尚の世話をする人を雇っているとのことだったQuestion 3。
そして、院長は真司に、尚がここに来たときに持っていたというカバンを差し出した。カバンを開けると、真司の書いた小説3冊とビデオカメラが入っていた。ビデオの映像には、子どもの成長記録や家族の幸せな日々、そしてこの診療所に向かうバスの中で撮影したらしき「真司、好きだよ」「真司に会いたい」と泣き笑いで話す尚の姿が映っていた。
浜辺にいた尚に、真司は「はじめまして」と話しかけ、自分の本を差し出したが、尚は「本を読めない」と言う。「じゃあ、僕が読むから聞いてもらえますか」と言うと、うなずいたので、真司は朗読を始めた。尚はストーリーに興味を持ったようだった。その後も、真司はたびたび診療所を訪れ、尚に本の読み聞かせをした。
ある日、いつものように本の朗読をしていると、尚が突然、「やっぱり真司は才能あるね」と言い、続きの文章をそらで語り始めた。一瞬だけ記憶が戻ったのだ。「その瞬間は、神様がくれた奇跡だったのかもしれない」と真司は思った。
そのとき以降、尚が真司のことを思い出すことは二度となかった。
尚の死
1年後、尚は肺炎でこの世を去ったQuestion 4。
その後しばらくして、真司は尚と自分のこれまでのことを題材に、小説『大恋愛~僕を忘れる君と』を書き上げた。出来上がった小説の見本が真司の手元に届くところで、ドラマは終わる。
→ つづきは〈ドラマ「大恋愛」最終回を編集部員が見た 〉 へああ
ドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と」:2018年10月12日~12月14日、TBS系で放映。
公式サイト https://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
若年性アルツハイマー病:アルツハイマー病の中で、65歳以下で発症する若年性アルツハイマー病は1割程度と言われている。高齢者のアルツハイマー病に比較すると、初期から認知機能をはじめ脳の様々な機能を失い、社会参加や社会活動が困難になり、比較的早いスピードで重篤化する。[以上、「大恋愛」公式サイトより]
最も多い発症年齢は50代から60代前半で、34歳の尚の発症はかなり早いといえる。
若年性認知症をテーマにした映画やドラマ:近年では、映画「アリスのままで」「明日の記憶」「私の頭の中の消しゴム」「アウェイ・フロム・ハー~君を想う」「八重子のハミング」、ドラマでは「私の頭の中の消しゴム」の原作となった「Pure Soul〜君が僕を忘れても」「ビューティフルレイン」などがある。
軽度認知機能障害(MCI):認知症の一歩手前の状態で、認知機能の低下はみられるものの、症状はまだ軽く、日常生活に大きな困難を来たすほどではない。健常な状態と認知症の中間でグレーゾーンといえる。何も対応しないと認知症に移行する確率が高い。
長谷川式認知機能検査:正式名称は「改訂 長谷川式簡易知能評価スケール」。30点満点で、20点以下が認知症の疑いが高いと判定される。
第2話で尚がこのテストを受けた場面があり、テストをやってみた視聴者から「全然できなかった」「やばい」という声が多くあがったようである。
公平のエキセントリックな言動:認知症の行動・心理症状(BPSD)である攻撃性や性格変化、または前頭側頭型認知症にみられる脱抑制行動ととらえる見かたや、発病をきっかけに、もともと公平の持っていた攻撃性が前面に出たという見かたがある。
ただし、軽度認知障害や認知症になったからといって、必ずこのような言動が出現するわけではないことは留意されたい。
尚の死因:ドラマでは「1年後に肺炎で死んだ」という情報しかなく、唐突感を抱いた視聴者は多かったようである。アルツハイマー型認知症は嚥下機能が低下し、咀嚼困難から誤嚥性肺炎を起こして死に至ることも多いので、おそらく尚も、ある日誤嚥性肺炎を起こして亡くなったのだろう。
2019年02月13日