突然の認知症宣告からの約2年間<前半>

認知症の人とその家族はさまざまな苦悩を抱えながら、日々生活しているといわれています。そんな本人・家族らの体験を理解することはとても重要です。今回紹介するはかせ次郎さんの妻は51歳で若年性認知症と診断されました。診断を受けたときの妻と自身の思い・状況について語っていただきました。

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「なにかがおかしい……」

若年性認知症と診断される前後の仕事、生活、通院などの状況をにまとめました。

表|診断前後の状況

●病気の前兆

妻は2009年まで勤めていたA高校を「1番楽しい」と言っていたので、うまくやっていたと思われます。B高校に異動してからはちょくちょくミスをしていたのか、「お局様的な年配の女性教師にいじめられる」とたびたび私に訴えてきました。「他の高校に異動希望を出せば?」と話すと、妻はそのとおりにし、2013年にC高校に異動しました。

C高校へ出勤初日、妻は学校で車の鍵をなくし、同僚に送ってもらい帰宅しました。その後、妻がスペアキーを持ち、私は自分の車に乗せてC高校まで車をとりに行ったのですが、妻がスペアキーだと信じて持って来た鍵は鍵穴に合いませんでした。違う鍵だったのです。後日、スペアキーは散らかし放題の妻の部屋で見つかりました。

料理を焦がしたり、同じ物ばかりを買いだめしたり、物を忘れたりなくしたりすることが認知症のサインだと気づいていれば、もう少し早く専門医の治療を受けられたのに、と思っています。

●若年性認知症であることが発覚

C高校では、すでに教えた範囲をまた教えようとして生徒に指摘されたり、板書をミスしたり、授業する教室を間違えたりするなど、いろいろとしでかしていたようでした。2013年8月、妻はスクールカウンセラーとの面談の後、教頭先生の付き添いの下、D病院の精神科を受診しました。このときの診断はうつ病でした。しかし、2014年3月に2回目のMRI検査とSPECT検査でアルツハイマー病と診断されました。

妻は病院に行ったことを私には内緒にしていました。ある日、三男が「母さんが頻繁にインターネットで“アルツハイマー”に関する検索をしている」と言ってきました。私は妻に「誰がアルツハイマーだって? あんたのお母さんか?」と尋ねたところ、「私」と白状しました。

以前からなにかおかしいと思っていた私は、ああ、やっぱりそうか、と合点がいったのでした。認知症とうつ病はよく間違えられるそうです。素早く適確に診断できる手法が確立されることを望みます。

つらかった日々

●診断を受けたときの妻の思い

妻にアルツハイマー病の診断を受けたときの気持ちを尋ねても、なかなか返事は返ってきません。「D病院で医師に『もう授業をするのは難しいですよ』と言われたとき、涙を流しておられました」と、教頭先生から後で聞きました。

また、診断前の数年間、私と妻はよくけんかをし、家事がうまくできない妻に対して、「ちゃんとやらないなら叩き出すぞ」というようなきつい言葉を浴びせたことも何度かありました。診断後に、散らかった妻の部屋を一緒に片づけながら「病気だとわかっていればもっと優しくしたのに……。ごめんね」と声をかけると、妻の目からは涙が数滴こぼれ落ちました。

●妻の病気を知った後の私

私は2014年4月に、それまで数年間患っていたうつ病がほぼ寛解し、心療内科で最後の診察を受けました。その翌日に妻がアルツハイマー病であることを知りました。

その後、妻は迷子になったり、部屋を散らかすようになったため、私は多くのことに対応しなければならなくなりました。そうこうしているうちに、暑くもないのに胸に汗をかいたり、だんだん私の体もおかしくなっていきました。

当時の私は妻や子どもたちの将来に対する不安と絶望に支配され、うつ病が再発していました。以前通っていた心療内科に再び通院し、抗うつ剤、睡眠導入剤、抗不安薬(頓服)を処方してもらいました。抗うつ剤の作用が安定するまでの間は、何もかもを投げ出して1人この世から消え失せたい気持ちが何度もわいてきました。仕事に行く前や、妻の職場に呼び出されたりするときは、事前に抗不安薬の服用が欠かせませんでした。毎日、片道1時間かけて、自分で車を運転できなくなった妻をC高校に車で送迎する中で、私は薬の副作用による眠気に頻繁に襲われ、何度か追突事故を起こしそうにもなりました。

2014年6月からはC高校で月1回、情報交換を行うようになりました。そこでは、妻がこんな失敗をした、あんなミスをしたとの報告を受けた上、「旦那さんはいつか決断をするときがきますね」とまで言われました。私には本当につらい日々だったのです。

<つづく>

──月刊「コミュニティケア」第18巻 第03号 p.50-52(2016)より転載

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