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性的逸脱行為への対応ーー看護職の悩みを和らげる工夫:②Q&A編

Column

性的逸脱行為への対応ーー看護職の悩みを和らげる工夫:②Q&A編

認知症者の性的逸脱行為について1人で悩んでいる看護職も少なくないでしょう。今回は2回に分けて、性的逸脱行為を繰り返す利用者へのかかわり、訪問看護で起こりやすい6つの場面についてQ&A方式でNPO 法人なずなコミュニティ看護研究・研修企画開発室 室長 堀内 園子さんにご解説いただきます。

 

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性的逸脱行為への対応の工夫

Q1:突然、後ろから抱きついて体を触ってくる利用者に、どのように対応したらよいでしょうか?

 

A1:突然、体を触られるといった体験は大変ショックな出来事です。たとえ認知症看護に真摯に取り組んでいる人でも、突然抱きつかれたら戸惑い、時には怖れを感じると思います。このときに生じ得る最悪な状況は、看護職がびっくりして利用者を振り払い、ケガを負わせたり転倒させたりして利用者も看護職も傷つくことです。

人は“触れる”という行為をとおして、安心感を得ようとします。もしかしたら利用者は変わっていく自分への不安や寂しさ、もどかしさから、人とのつながりを求めているのかもしれません。その場合、手浴や足浴などの触れ合うケアを定期的に行い、不安などを受け止めようとする看護職の存在を実感してもらうとよいでしょう。触れられる心地よさは、オキシトシンやドーパミンなどのホルモンの分泌を促すため、生理学的な側面からも幸せを感じることができます。

認知症の進行が進み、人物誤認などがある場合は、看護職を妻や恋人と思い込んでいることがあります。そのため、利用者が看護職をどんな存在と捉えているのかをアセスメントしましょう。解決の糸口が見えてくることもあります。また、散歩などの活動を促してエネルギーを発散させ、関心をほかに向けさせることも有効です。

Q2利用者が「夫と毎晩やっているの?」「股間は使わないと腐るよ」などと卑猥なことを言ってきます。どうしたらよいでしょうか?

 

A2会うたびに卑猥なことを繰り返し言われると、さすがに疲弊してうんざりしてしまいます。利用者とかかわりたくないといった気持ちが生じてしまうかもしれません。

言葉の意味をそのまま捉えるのではなく、言葉から読みとれる“感情”に着目して利用者の気持ちを転換させてみましょう。「夫と毎晩やっているの?」という質問には、「夫と毎晩なんてしていません」などと答えるのではなく、「夫の話が好きなんですね。□□さんはご主人と仲がよかったのですか?」などと、利用者自身の楽しい思い出へと気持ちを転換させます。

脳の萎縮に伴って定型的な会話しかできなくなった人は、私たちが受ける印象よりもずっと軽い気持ちでそういった言葉を使い、あいさつ代わりに投げかけている場合もあります。ある程度、信頼関係が築けている利用者には「こういう話はそろそろ卒業して、100歳まで元気に過ごす方法を考えませんか?」と笑顔で質問をかわすのもよいでしょう。

Q3:「夫が嫁と寝ている」「夫が嫁と浮気している」と思い込んでいる利用者に、どう対応したらよいでしょうか?

 

A3「ご主人(お嫁さん)はそんな人ではないですよ」などと言っても、利用者の気持ちは収まりません。むしろ「私の言うことを信じてくれないのね!」と怒りだすかもしれません。

このような場合は、原則7に基づいてその背景にある感情に焦点を当ててみましょう。利用者は認知症によって自分の持つ力が失われつつあり、大切な人から見捨てられるかもしれないといった不安があるのかもしれません。あるいは、一番近くで支えてくれている夫や嫁に対してひどいことを言っていると理解しつつ、「こんな自分でも見捨てないでくれますか?」と確認していることもあります。そのため、利用者に“誰もあなたを見捨てたりしない”“あなたは大切な人”ということが伝わるようなコミュニケーションをはかり、環境づくりをしましょう。それが利用者の思い込みを少しずつ溶かしていきます。

ただ、一方的な思い込みによって疑われた夫や嫁は、利用者に対して「あなたは大切な人」とすぐに心からは言えないかもしれません。そこで、周囲の看護職やサポーターの力が必要となります。利用者に寂しさや不安を語ってもらったり、楽しい気持ちになるように生活に趣味活動や新たな取り組みなどを取り入れたりして、心を徐々に解放させていきます。これは、脳の働きと仕組みの観点からも有効な方法です。

脳にある海馬は記憶を司り、認知症の人がダメージを受ける部位の1つです。海馬の隣にある扁桃体は情報が心地よいものか不快なものかを判断しており、生まれたときから存在する好き嫌いといった感情を司っています()。

海馬と扁桃体は影響し合っており、認知症によって海馬が萎縮すると、情報が扁桃体に適切に伝わらず、扁桃体の働きも変調を来します。不快な感情を抱きやすくなり、人を疑ったり、落ち込んだり、不機嫌になったりするのです。また、うつ病も発症しやすくなります1)

現代の医学では、海馬についてはあまり詳しくわかっていません。一方、扁桃体は他者から優しく触れられたり温かい言葉をかけられたりすると、機能が高まることが解明されています2)

利用者が「夫が嫁と浮気している」などと言うときには、まず「そんな思いでいたらつらいですね」「不安ですね」と、いったん気持ちを受け止め、“誰もあなたを見捨てたりしない”“あなたは大切な人”と、利用者自身が大切にされていることを感じられるように働きかけをしましょう。

Q4性器を見せたり、自分の性器を触らせようとする利用者への対応について教えてください。

 

A4利用者に性器を見せられたら、看護職はびっくりして大きい声を上げたり、逆に声が出なかったりします。いずれにせよ、こうした場面では過剰な反応は避けたいところです。

このようなケースの場合、なるべく早い段階で、臀部・陰部などに痒みがないか、便秘・失禁などの排泄トラブルを抱えていないか、トイレに行きたいけれど行けないといった困り事が隠されていないかを確認します。これらの問題は、下着を脱ぐ行為につながるからです。また、認知症の進行によって脳の言語野が萎縮すると、「トイレに行きたい」などの言葉が滑らかに出なくなったり、身体的不快感・苦痛を訴えられなくなったりして、下着を脱ぐなどの行為で表すこともあります。

次に、これらの問題がないケースを考えましょう。訪問中にいきなり性器を見せられたら驚くのは当然です。しかし、まずはさりげなく視線を外します。利用者が看護職の手を持って性器を触らせようとしたら静かに手を引きます。嫌がっていることを表してよいのです。ただ、あくまで“静かに”“ゆっくり”が重要です。看護職が感情を言語化できればよいのですが、それが難しいときは冷静に「下着をはきましょう」と利用者がとるべき行動を伝えます。

性器を見せる・触らせる人の中には、生活の中で自尊心を傷つけられる体験をしており、性器を見せることで自分の強さやプライドを強調したり、他者と触れ合うことで安心感を得ようとしたりする人がいます。そういった人には、プライドを傷つけられる体験をしてないか振り返り、自分を主張できる環境をつくりましょう。

利用者が下着をはくことに激しく抵抗し、看護職が恐怖を感じるときには、一定期間、治療的環境の中で過ごしてもらうことも有効です。利用者のつらさを緩和することができます。

Q5:訪問中に利用者が自慰行為を始めます。どうしたらよいでしょうか?

 

A5自慰行為そのものは自然なことですが、看護職に見せつけたり、時間・場所を問わず行ったりするのは、利用者本人の尊厳にもかかわります。自慰行為を繰り返す人は注意・関心が自分の体にしか向いていないため、気持ちの切り替え方法や、ほかのことに関心を向けさせる方法を見つけ、トレーニングすることが必要です。

この方法は、人前で自慰行為をする人に限らず、多くの人に役立ちます。日々の暮らしの中で「イライラ(モヤモヤ)してきたら、深呼吸を3回しましょう」「手をたたいたら、行動を切り上げましょう」など、切り替えの鍵を見つけ、注意を転換させる方法を訓練するのです。これは、その人に合った気持ちの切り替え方法を見つけられるかがポイントになります。

自分の体にしろ他人の体にしろ“触れる”という行為は、Q1で述べたように安らぎを求めていたり、自分の存在を確認したりして行っているため、利用者に対して触覚へ働きかけるようにしましょう。軽く触れたり、心地よい香りのアロマをたいたり、楽しい会話をしたり、美しい景色を見せたりするなど、ほかに関心が向くようにします。

Q6利用者の性的逸脱行為に悩む家族への対応に悩んでいます。どのようにかかわればよいのでしょうか?

 

A6利用者の性的逸脱行為に家族が直面するとき、家族内の感情の絆が断ち切られてしまうことがあります。認知症の人の性的逸脱行為は、認知症により利用者が自身を30~50代くらいの年齢だと思っていたり、脳の前頭前野の萎縮により抑制が欠如したりすることから表れます3)。側頭葉の強い障害でも出現しやすいといわれています4)

家族の相談に乗るときは、まずどんな状況で、どのようなことが起こり、それに対して家族がどんな思いを持っているのかを聞き、感情を吐き出してもらいましょう。

家族の中には、「認知症とはいえこんなことをするのは本人が本来持っていた性格や性癖だ」と考え、絶望的な気持ちになる人もいます。さらには、それまで隠し続けてきたことに憤りを感じ、利用者の人生までをも否定する場合もあります。

家族だからこそ感じるつらさ、憤りがあります。その気持ちを受け止めつつ、性的逸脱行為は認知症には高い割合でみられること、対応について看護職が一緒に考えていくことを伝え、家族を支え続けることが重要です。

<引用・参考文献>

1)山本高穂:脳の進化から探るうつ病の起源, 第11回 日本うつ病学会市民公開講座・脳プロ公開シンポジウムin Hiroshima 報告書, p.2-7, 2014. http://www.nips.ac.jp/srpbs/media/publication/140719_report.pdf[2016.12.5確認]

2)Field T.:乳幼児の発達におけるタッチとマッサージ, 日本タッチケア研究会監訳, 医科学出版社, p.154-167, 2005.

3)Rascovsky K., Hodges J.R., Knopman D., et al. : Sensitivity of revised diagnostic criteria for the behavioral variant of frontotemporal dementia, Brain, 134(9), p.2456-2477, 2011.

4)Zamboni G., Huey E.D., Krueger F., et al. : Apathy and disinhibition in frontotemporal dementia Insights into their neural correlates, Neurology, 71(10), p.736-742, 2008.

<おわり>

──月刊「コミュニティケア」第19巻 第03号 p.15-18より転載

2020年02月10日