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『痴呆を生きるということ』『認知症とは何か』等の著書で有名な精神科医・小澤 勲 先生が選んだ“ぼけ”をテーマにした文学作品・詩歌・絵本を、毎月1冊ご紹介します。
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わたし大好き
TWO-LAP BOOK /ひざを寄せて読む絵本
リディァ・バーディック 作、みらいなな 訳童話屋 / 2006年 / 絶版
これは米国在住の臨床心理士バーディックさんが作られた絵本です。しかし、仕事の一端として作られたのではなく、アルツハイマー病と診断された母親の介護の過程で、一緒に読む絵本がなく、子どもの絵本には老いの姿が描かれているものがなかったので自分で作ったのだ、と言われています。日本昔ばなしには必ずと言ってもいいほどおじいさん、おばあさんが出てくるのにね。
この絵本は、出版する前に家族の方や私の知人、友人ら数百人の方々に読んでいただき、その意見を入れて出版しようという童話屋の社長とみらいななさん(お二人はご夫婦です)の考えで出版が大幅に遅れ、私はその真面目な態度に打たれ、ご依頼を受け、監修の仕事を引き受け、一文も書きました。
皆さんのご意見はおおむね好意的なもので、久し振りに会話がはずんだと言ってくださった方もありました。絵が日本の風景ではなく戸惑ったというご意見もありましたが、今後、それぞれの地域の独自性を生かして日本版、地方版ができればいいですね。想像するだけでも楽しくなりませんか。
実は、原本にはかなり詳細なマニュアル、台詞が付されていたのですが、多くの方のご意見は、使い方は任せてほしい、ということだったので、別冊にして挟み込むことにしました。
冒頭にはみらいななさんと私のツーショットの写真が載っています。私のつれ合いは私の顔をさして「変な顔」と言うのですが……。その「変な顔」の上に私の一文があります。
「『ぼけ』ゆく人たちとともに暮らしていると、彼らは人生の夾雑物を少しずつ取り除いていって、ついに清明な世界に至るのだと感じることがあります。それはとても素朴な感性です。陽の光をあびるのが大好き、音楽を聴くのが大好き、お昼寝でうとうとするのが大好き、といったような……。そこに至るまでは、なかなか大変なのですが」という文章です。
さらに、この本は「二人が膝を寄せて読む本」というサブタイトルがあり、それに従って「みらいななさんと膝を寄せて、この本を読んでみた。ちょっと照れくさかったが、心が通じたような気がした」という文章が続きます。
たくさんの方に見、読み、使っていただきたいと願っています。
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はじめに
①明日の記憶◎荻原 浩 著
②われもこう◎瀬戸内寂聴 著
③寂蓼郊野◎吉目木晴彦 著
④ただ一撃◎藤沢周平 著
⑤都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト◎澁澤龍彦 著
⑥わが母の記―その1「花の下」◎井上 靖 著
⑦わが母の記―その2「月の光」◎井上 靖 著
⑧わが母の記―その3「雪の面」◎井上 靖 著
⑨おばあちゃん ひとり せんそうごっこ◎谷川俊太郎 文、三輪滋 絵
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2020年06月20日